2003.02/14up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2003.03/01放送原稿)

雪崩の話し

3月になりました。まだまだ冬ではありますが、3月という言葉を聞いただけで、何となく暖かい風が吹いてくる様な気になるから不思議です。実際に、3月になると、山に降る雪の量もぐっと減り、段々と積雪も締まってきます。従って登山者の行動範囲も広がります。普段は登山道が無くて行けないような山にも、3月以降の締まった雪の上を歩くことによって容易に近づける事もできますし、山スキーなどで滑っても、それまでのような深いラッセルではなくて、まるで圧雪されたゲレンデの様なフィールドを提供してくれます。 山の晴天率も高くなり、春の日差しをあびて、真っ黒に日焼けするのも3月以降です。 そんな楽しい3月ですが、雪の山に入ってちょっと心配なのはやっぱり雪崩でしょうか?
今日は山で遭遇する可能性がある危険の中でも一番怖いであろう、雪崩のお話をしましょう。

雪崩はそこに雪が積もっていて、その雪が滑り落ちるだけの斜面があればどこでも発生する現象です。ただ、雪が斜面をたえず滑り落ちていれば大した影響は無いのですが、その雪がある程度まで斜面に積もってその重さに耐えられなくなった時に大量の雪を一度に滑り落ちてくる場合にはとても巨大なパワーとなります。記録では、鋼鉄の鉄塔を根元からなぎ倒したり、二階建ての立派な家を完全に押し流したりする雪崩もけして希ではありません。ただし、そんな巨大なパワーを出すのは春先に起きる底雪崩です。底雪崩は、ほとんどの場合は場所も雪崩れる期間も毎年決まっていて、比較的容易に予知する事が出来ますが、我々登山者が遭遇して恐ろしいのは底雪崩れつまり全層雪崩れではなくて、表層雪崩という比較的小規模のどこで起こるか分からない雪崩です。

表層雪崩と一口に言っても、大小さまざまですが、そのほとんどは大きな木もえぐってしまうほどのパワーはありません。ただし、その雪崩れに人間が巻き込まれると、これは一大事です。ホンの数十メートル巻き込まれて流されただけでも雪の中に埋もれてしまい、一人で脱出するのは困難です。私も以前、何度か雪崩に巻き込まれた言が有ります。一度は、吹雪の最中の小規模な雪崩れでしたが、ふと気づくと、自分とその周りの雪が流されていて、見る見るうちに体が埋まっていきました。その状況はスローモーションのようで、とても不思議な体験でしたが、幸い頭まで埋まるほどではなかったので、自力で脱出出来ましたが、もう少し規模のでかいものだったら、はたして自力で脱出出来たかどうかは分かりません。もう一度は、自分が滑ったスキーがきっかけで自分が発生させた雪崩に自分で巻き込まれたりもしました。そのときは体のほとんどの部分が埋まってしまいましたが、幸いにも片足が雪面から出ていたため、仲間に掘りおこしてもらうことができました。

よく雪崩は、(この場合は表層雪崩の話)朝よりは日中の暖かいときや日が射して雪がゆるんだ時に起こると言う、間違った認識がありますが、実際には雪の斜面があれば、雪崩はいつでも発生します。晴れた日中に起きなくて、真夜中に雪崩れる事もあります。ようは斜面と積雪の力関係で、その均等が保てなくなったときに発生します。一番危ないのは顕著な弱層帯がある時です。 何日もかけて沢山降り積もった雪の層と言うのは均一な層ではありません。沢山降って積もり、一段落して晴れ間が出たときに積雪の表面が暖まって雪が溶けさらに夜になってその溶けた部分が今度は堅く凍りつきます。そしてその上に新たな雪が積もれば、その場所の上に積もった雪が滑りやすい弱層帯が出来上がります。そしてその弱層帯の上に積もった雪が、何かのきっかけで雪崩となって滑り出すと言うわけです。そんな雪崩の怖さを知っている登山者は、雪の沢山積もった場所を歩くときに、非常な緊張を伴います。なれた経験のある登山者ですと、その場所を歩くだけで弱層帯が分かったり、また経験上のカンが働いたりしますが、普通は弱層テストというテストをします。弱層テストと言うのはとても簡単です。手で抱えられる程度の大きさで積もった雪をかき分けて雪面を頂点とした雪の塔を作ります。そしてその塔に腕で圧力をかけ、容易に崩れるようだったら顕著な弱層帯があると言うわけです。このテストで分かるほどの弱層帯があるような時は、もういつ雪崩れてもおかしくない時で、そんな日はたとえ晴れていてもあまり行動するべきではありませんし、行動する場合は細心の注意が必要です。

さて3月をすぎて残雪期になると、その積雪の表面が崩れる表層雪崩よりも、雪解けの春の音とも言える底雪崩。つまり全層雪崩や、大きく張り出した雪庇という雪のひさしが崩れるブロック雪崩などが発生します。そんな時期はけして危険地帯に入らない様に注意する必要が有ります。その為にも、雪山に入山する登山者は、日頃から雪崩の知識を身につけておいてください。

この横須賀では殆ど縁のない雪崩のお話でしたが、雪崩のこと、少し分かったでしょうか?

さて、と言うわけで山のお話、これからも続くのですが、皆さんのご意見ご感想、そして今後どのような山話しを聞きたいかのご希望。山に関するご質問等々をお寄せ下さい。お便りを放送でご紹介させていただいた方には、私が持ち帰った山のおみやげ品などをプレゼントします。
宛先です。
〒238−0008 横須賀市大滝町2−20 FMブルー湘南 FAX は、046−821−3511 川名 匡の山に遊ぶの係りまでよろしく。
あなたの住所・氏名も忘れずに書いてください。

雪が大好きな"山岳一級遊び人" 川名 匡でした。 ではまた来週。


[追記]
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