2003.01/31up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2003.02/01放送原稿)

アイスクライミング

寒い寒い毎日が続いていますが、皆さん風邪などひいていないでしょうか?
標高が100メートル上がると気温は約0.6度下がると言うことを皆さんご存じでしょうか?
横須賀の今の時期、日中の気温は寒い日で大体プラスの一桁台ですが、例えばそれをプラスの5度として、それが神奈川県の最高峰がある丹沢の山頂だと、計算上で約マイナス4.6度となります。3000メートル峰がある北アルプスなどではマイナス13度。富士山の山頂ではマイナス17.8度です。もっとも北風が吹く気圧配置や天候や風などで更に気温は下がりますので、富士山などでは日中でもマイナス20度以下の世界でしょう。 こんなに寒い世界だと山全体が凍り付いてしまうのではないかと思ってしまいます。実際、高い山に入れば、周りの物全てが凍り付いている様な景色も見ることができます。今日はその、氷の世界を登る氷瀑登擧、アイスクライミングのお話をしましょう。

アイスクライミングとは読んで字のごとし、氷を登る事です。元々は氷河や凍り付いた岩壁を登るクライミングの事ですが、日本では氷河は存在しなく、また凍り付いた大きな岩壁もありません。従って日本国内でアイスクライミングと言うと、それは凍り付いた滝を登ることを意味します。ここで、そもそも発祥の時点でのアイスクライミングと現在でのアイスクライミングの違いをお話しましょう。

厳冬期の岩壁を登る時、凍り付いた壁にホールドという手がかりを探して雪をかき分けたり、岩場に新しいホールドを作ったり、また安全のための支点を作ったりする作業は非常に困難を伴います。そんなとき、氷の部分をルートに取れば、新しいホールドや足を置くスタンスを気にせず、氷のどんな場所でも、バイルやアイゼンという氷専用の道具を使って作り出し、凍り付いた岩場の部分を登るよりもスピーディに行動する事ができます。登山でのスピードと言うのは非常に重要で、勿論その人の技量を超えたスピードは別ですが、スピードと危険は反比例します。つまり登るスピードが早いほど安全率は上がります。つまり発祥の時点でのアイスクライミングは、安全に登擧をするためにスピードをあげる手段として選ばれたルートと言うことになります。

それとは別に、今国内で盛んに登られている凍り付いた滝を登る氷瀑・アイスクライミングは、直ぐ隣にある簡単なルートは登らずに、あえて困難な凍り付いた滝を登ります。端から見れば滑稽ですが、あえて厳しい場所を登る訳です。また滝を登るアイスクライミングは、やはり本来は大きなルートへ行く為のトレーニング的な物ですが、最近はその滝登りが目的で登っている人が多い様です。ショートルートであれば、重たい荷物を担いでの行動が必要な他のジャンルよりも比較的体力が無くてもできます。トップロープという安全な方法を使えば、初心者でも楽しめるし、いい道具を使えばグレードも低くなります。という理由で、中高年者のアイスクライマーも最近は増えているようです。

さてその他に、アイスクライミングに引きつけられる魅力は何でしょう。その魅力は感じる人それぞれに違う物ですが、まず美しい氷の世界に入ること。一面真っ白そして時にはブルーに輝いた氷の世界に入ると、そこは別世界です。そして普通では考えられないような場所。人間がくっついていられないようなところに、道具の力を借りて存在できること。その魅力につきるでしょう。アイスクライミングは道具に依存する部分が多くて、もしその瞬間に持っているバイルが消えて無くなってしまったら、後は落ちるだけです。勿論、しっかりとした登山靴やアイゼンが無ければ登れない一般の冬山登山や、ヘルメットやザイルなどの安全用具を装備する普通の岩登りも、道具が無ければ行動はできませんが、その依存度を考えればかなりの差があります。と言うわけで、登山のジャンルの中でも、アイスクライミングは少し異質ですが、それでも登るという魅力が存在します。

私自身はあまりアイスクライミングの経験は無く、特に最近はこれでもかという位に異質で先鋭的な道具が充実していますが、何となく遠のいている分野です。やはり攻撃的な登り方は私には向いていないのかもしれません。しかしそんな私でも、昔は何度か通っていました。
国内のアイスクライミングエリアは、気温が低く雪が少ない場所となります。いくら気温が低くても、大量の雪が積もってしまえば滝が雪の下に隠れてしまうからです。また凍り付く滝も、夏場にも流れが緩い沢で、それでも水量はそこそこある様な場所です。ですから条件に合うエリアもあまり多くありません。雪が少なくて気温が低い場所と言えば、日本海側ではない北側内陸部で、例えば山梨や群馬、栃木などの山中がこれにあたります。このエリア内で条件にあった沢を探ると、凍り付いた滝に巡り会えるとしう訳です。 私が通ったことがある場所は、八ヶ岳や奥秩父、南アルプスの北側にある低山。そして群馬県北部の上州や栃木県の日光や足尾周辺です。また最近では信じられませんが、神奈川県内の丹沢でも何度かアイスをした事があります。実は数年前に、思い立ったようにアイスの道具を持って丹沢に行ってみましたが、やはりチョロチョロと水が流れていてダメでした。寒いとしても、丹沢の滝が凍るのは2月上旬の短い時期だけですが、ここ十年以上、何となく暖冬傾向が続いていてあまり寒い年がありませんでした。私が昔通っていた滝は、西丹沢の北側斜面にある小さな沢でしたが、出合には15メートルほどの大滝があって全面氷結していたし、その滝の上部には一面に凍り付いたブルーの河床が続いていました。

というわけで今年ですが、例年になく結構寒いです。ですからまたちょっと偵察に行ってみようかな〜とも思っています。
さて、実は今日もこれからアイスクライミングに出かけます。
今日行くところは八ヶ岳です。あちらはものすごく寒い日が続いているとの事ですので、ちょっと身震いしながらですが楽しみです。

山が大好きな"山岳一級遊び人" 川名 匡でした。 でまた来週


 ← 前週の放送 

 トップページ 

 次週予告 → 


E-Mail : Tadashi Kawana [Copyright(c)1999]
槍ヶ岳