今年の冬は本当に寒いです。
私は冬が好きで、寒さにも強いつもりでいたのですが、今年の冬は本当に寒くて、かなり厳しいモノがあります。
そんな寒い寒い冬に、わざわざ更に寒い雪山に登ろうなんて考えるのですから、私はちょっとおかしいのかもしれません。
と言うわけで、今日も寒い話をしましょう。 どうか皆さん、暖かくして聞いてください。
年末は西穂高岳という山に登ってきましたが、今回は早々と下山して、今年のお正月は横須賀で過ごしました。ほとんど寝正月と宴会の日々でしたが、おなか周りが気になるので、今週末は今年初めての山に登ります。
皆さんは雪山で雪に囲まれて寝るという事を想像できるでしょうか?
たぶん、感覚的に寒いんだろうなと思うでしょう。勿論マイナス温度の世界ですから、寒いのは当たり前なのですが、実は1日を通して、そんなに寒さを感じる事はありません。朝早く、気温はとても低いですが、歩き出せば体がすぐに温まって来ます。冬用の暖かいウエアーを身につけているので、急な登りなどは汗ばむ程です。一日の行動を終えてテントに入るとテント内ですぐにコンロの火をつけます。外気温が寒くても、テントの中はすぐに暖まって来ます。コンロはずっとつけっぱなしですが、さすがに夜になって寝る時は消します。それでもテントの中が冷える前に暖かいシュラフに潜り込みます。寒いと言えば、夜中にトイレに起きた時くらいでしょう。こんな私でも、人並みに風邪を引く事もありますが、それは山の中でなく、いつも家に帰ってきてからの事です。ついつい薄着で、夜中中パソコンなどに夢中になっていて、ふと気がつくと寒さで体が冷え切っていたりしますが、つまりそれ相当の備えを怠っている自宅での方が、山にいる時よりもよっぽど寒い気がします。 さてもう一つ雪のお話。
雪上歩行具として、日本では昔から木や竹で作ったかんじきという道具があります。ちょうど忍者が池の上を歩く道具のように足に履いて、かんじきは雪の上を歩きます。足裏の接地面積が増えて、足が雪の中に潜り込まない役目をします。その日本のかんじきのライバルとして最近グッと市民権を得てきたのがスノーシューです。かんじきはまん丸に近い楕円形をしていますが、西洋カンジキであるスノーシューは細長のテアドロップ型をしています。その滴型の細い方を後ろにして、足を引きずるように歩くことで、高い直進性能を発揮します。それに対して和カンジキは引きずらずに確実に足をあげて踏み込んで歩きます。ですからたとえば広い雪原でカンジキとスノーシューの競争をすると、断然スノーシューが有利ですが、より深い雪の中の上り下りとなるとカンジキの方が歩きやすくなります。私は両方使っていますが、特に急な斜面の下りなどはスノーシューを履いていて何度も転げた事があります。やはり広い原野を歩くために生まれたスノーシューと急峻で雪の深い日本の山岳地で生まれたカンジキの差でしょう。ですから、外国製のカンジキでも、ヨーロッパアルプスなどでうまれた山岳地用のスノーシューは比較的日本のカンジキに似通った形をしています。またそれと逆に、北海道のアイヌ達が使っていたテシマという名前のカンジキは、一般的なカンジキというよりも、スノーシューに近い形をしています。カンジキとスノーシューの大きな違いは足の固定方法です。スノーシューはつま先からかかとまで、足全体を固定して履きますが、一般的なカンジキは足のちょうど中心である土踏まずから足首を固定します。その固定方法で、カンジキが足全体に固定されるのではなくて、土踏まずを中心にしてフラフラと動くので、雪の斜面に合わせてちょうどいい形になります。これにより、急斜面の上り下りが容易になるという訳です。
カンジキを履いての歩き方ですが、コツはカンジキを逃がしながら歩く事です。スノーシューに比べれば小さなカンジキですが、それでも雪の中に潜り込んだカンジキの抵抗は馬鹿にならないものです。ですから雪に踏み込んだカンジキはけして雪の中の抵抗に逆らって無理矢理引き抜くのではなくて、前に進む力つまり重心移動に合わせて自然に引き抜く動作をします。これはお話では良く説明しきれないのですが、ちょうど水を泳ぐ時の腕の動きに似ています。まず力を入れて手のひらを広げて水をかきます。その手が後ろになったところで、今度は手をまた前に出す訳ですけど、その前に出すときに同じように手のひらを広げて水の抵抗を一杯にひろったら、結局前には進まなくなってしまう訳です。ですから後ろに行った手を前に出すときはなるべく抵抗のない形で引き抜く訳です。それと同じ動作を雪の中でやる訳です。良く、はじめてカンジキをはいて深い雪の中を歩くと、強引にもがくためすぐに疲れてしまいますが、後ろ足を引き抜く時に抵抗を無くして体の重心移動ですっと引き抜けばほとんど力がいりません。ですから履き慣れた人とそうで無い人とは疲れ方が全然違ってきます。これはカンジキを履いている時だけでなく、普通にラッセルをしている時にも言える事です。
最近は、かっこの良さからかスノーシューを履く登山者が多くて、その姿は急峻な雪山でも見かけるようになりました。最近は深雪の急登向きのスノーシューも出回っておりますが、やはりかんじきにはかないません。最新技術で作られるスノーシューが何百年も前にその形が完成していたかんじきにかなわないと言うのも考えてみれば楽しい話しです。やはりスノーシューが頼りになるのはあくまで平坦な雪原で、急な上り下りは歩きにくいばかりか危険な状況もあります。先日も見ていて危なくて、「脱いで歩いた方が楽ですよ」と声をかけてしまいました。道具はその用途に応じて使い分けてもらいたいなあと思います。
さて、今週末は今年初めての山に行きます。場所は八ヶ岳。あまり悪い天気では無くて、真っ青な青空を期待しているのですが…今年は山の女神がほほえんでくれるでしょうか? また帰ったらご報告しましょう。
真っ白い雪が大好きな"山岳一級遊び人" 川名 匡でした。 でまた来週
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