2003.01/01up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2003.01/04放送原稿)

謹賀新年
(年のはじめに思う事)

皆さん、明けましておめでとうございます。
今年も山のお話、自然のお話、そして私の個人的なお話も、沢山沢山しますので、懲りずに聞いてください。
本年も山に遊ぶをよろしくお願いします。

と言うわけで、あっという間にまたお正月がやって来ました。1年は本当に早くて、びっくりしている暇もありません。こうして私みたいに山ばかり行ってる人間は、下界の物事にうといんじゃないかな?と皆さん思うかもしれませんが、実はかえって敏感になるモノです。例えば暮れに山には入りそしてお正月に下界に降りると、町の雰囲気がガラッと一転しているのがよく分かります。たった一日の違いでも、なぜかしら空気も変わっている様な気がします。お正月に限らず、例えば海外などの長期間の山から帰って来ても、普段見慣れていた風景がちょっと変わっていただけですぐに分かったりします。自然に囲まれた山の中ならなおさらですが、都会にいても四季折々の風景がありますし空気が存在します。お正月の雰囲気というと、やはり落ち着いたしっとりとした世界でしょうか。普段活発な女の子でもなぜか物静かだったりして見えるのが不思議です。

さて、山で迎えるお正月と言うのはどんなモノでしょうか。やっぱり山も、昨日までと変わらない世界のはずですが、大晦日が過ぎて新しい年を迎えると不思議と景色が変わって見えます。雪山の真っ白な世界がオレンジ色に染まりだし、今年初めて見る太陽はまた格別に大きく見えますし、一つ一つの山々が昨日よりもさらにりりしく立っているのが分かります。余裕がある山行では、山でもしっかりと本物のお持ちを食べたりしますが、余裕がない、つまり厳しいルートでの軽量化の為にぎりぎりの装備で登るときは、インスタントのお雑煮などでごまかします。でもやっぱりお正月気分は持って、今年一年の始まりをかみしめる訳です。 その昔の登山と今の登山とは、基本的な線では全く同じモノですが、装備の面やそのルートや個々の登山者が得られる情報量などは格段の差があります。戦前の山などはほとんど冒険の世界だったのでしょう。今でも道無き道を登る岩登りや冬山などのバリエーション登山の世界は、まだまだ冒険的要素を持ってはいますが、一般の登山道を登る山登りに関しては、ほとんどは情報と新しい装備の渦の中でもてあそばれて、ベルトコンベアーの上に乗って登らせてもらっている様な感もあります。バリエーションの世界でさえ、細かなルートの情報や、過剰とも言える安全率の高い最新装備に身を固めて登る昨今は、その冒険的な要素も薄れつつあるのが現状かもしれません。 もっともそのおかげで、誰でもがすぐに山登りを楽しめて、なおかつ昔から比べれば格段に安全が確保されていますが、一歩ベルトコンベアーからはずれたり、はたまたコンベアー事態が何らかのアクシデントで止まってしまったりしたら、もう何もできなくなる登山者も確実に増えています。従って、昔の登山での事故は、一部の先鋭的な、危険な登山をしているエキスパートが起こす事が多かったのですが、最近は全く山の知識が無い様な人が、何でこんな場所まで登っているのだろうと不思議に思うような所で起こす遭難が増えています。 その人のレベル以上の場所へ連れて行く危険な一部のツアー登山や、最新装備と知識だけで武装し肝心な実力が伴わない登山者達などはその特徴的なものでしょう。山登りはもちろん楽しいし、厳しい山に行けば行くほどにその魅力も倍増します。しかしいくら浮き袋を持っていても、泳げない人が外海で船から飛び込む様なことはしない様に、装備だけがあっても、その人の実力が伴わなければ危険な山には本当は登れません。ところが最近は、いい装備や登山ガイドのおかげで、その人の実力では到底登れない様な山に沢山の人が登っています。それはもちろんいいことでもあるのでしょうが…心配性の私はちょっと怖くなってしまったりします。
かく言う私も山岳ガイドをしています。その人が絶対に登れないだろうとあきらめていた山にお連れする事もありますし、そんな山に登れれば、皆さん私に感謝してくれたりもします。しかしそこでちょっと考えるのは、私はその人が持ってる実力で登れないような山にはお連れしません。その人の実力を上げるトレーニングをして、持てる技術を高めてもらい、あくまでその人の手や足とそして頭で登ってもらう"お手伝い"をします。手を取って引っ張り上げるのではなくて、何か突発的なアクシデントに備え、後ろから見守り続ける。それが本来の山岳ガイドでは無いかな……と常々考えます。

新年早々、山登りの辛口トークになってしまったかと思えば、最後は自分の宣伝になってしまった様ですが、今年も是非、まず一番に安全を。そして楽しい山登りをしたいと思っています。
私のホームページアドレスを言います。 http;//www.mt-kawana.com です。
お仕事の山岳ガイドのページ。この山に遊ぶの放送原稿をアップしてあるページ。自分の不定期日記。山から切り取ってきた画像のページ等々、沢山ありますので、皆さん時間があったら是非のぞいてください。 掲示板もありますので、是非ご意見なども書き込みしてください。

今年も皆さん良い年でありますように。
あと、私も登りたい山に全部登れますように……。

雪が大好きな"山岳一級遊び人" 川名 匡でした。 でまた来週



 ← 前週の放送 

 トップページ 

 次週予告 → 


E-Mail : Tadashi Kawana [Copyright(c)1999]
槍ヶ岳