今年もいよいよ残りわずかとなりました。
この一年も、相も変わらず半人前の私が、色々とお世話になった方、沢山沢山いらっしゃいました。 この場をお借りしてお礼を言わせていただきます。
どうもありがとうございました。 そして、来年も益々お世話かけます……とも言えないのですが、ひとつよろしくお願い致します。
さて、いよいよ今年も秒読み状態ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
何となく、何か忘れてはいないかとか、やり残したことは?とか、なぜかソワソワしてしまう今日この頃です。
私はと言いますと、この放送が始まる頃にはすでに山に入っています。今回登る山は西穂高岳という山です。 といっても実は今年は、予定がすべて順調にいけば、大晦日に帰ってきて家でお正月を過ごすという私としては非常に珍しいぱたーんとなるはずなのですが……果たしてそうは問屋がおろしてくれるかというところです。
さて今年のお正月は、山はおとなしくしていてくれるでしょうか? ちょっと気になります。 ここのところ毎年、お正月といえば八ヶ岳に入山していました。八ヶ岳は北アルプスのように連日荒れる事も少なく、また天候が荒れたとしてもテントでおとなしくしていれば何とかなる場所です。 なんといっても、太平洋側の気候に影響されていて晴れる日が多いのが八ヶ岳ですので、山としては行きやすい登りやすい場所でしょう。それでも、連日快晴がつづいて毎日毎日ハードに身体を動かしていると、朝起きてテントを開けたら吹雪だったなんて日は、1人でちょっと"ニコッ"としたりしていました。 ところで、今回登る山は、北アルプスです。西穂はその中でも簡単な山といわれていますが、というのは、冬でも運行している新穂高からのロープウェイに乗って、一気に高い場所まで行ける事と、ロープウェイから、雪の状態にもよりますが1時間から2時間程度で行けるすぐの場所に西穂山荘という山小屋が真冬も営業しているからです。今回はその西穂高岳を、ロープウェイを使い山小屋を通る一般のルートではなく、北側の夏場は道のない尾根上を上るバリエーションルートで登ります。つまり、八ヶ岳でのBCテントから山頂を一日で往復する定着登山と違い、下から尾根を登り山頂にたどり着き、さらに稜線上を歩くルートとなりますので、天気が悪いから停滞するという事になれば予定は一日遅れとなり、最悪は登れず撤退という事もあります。もっともその厳しさを求めていく訳ですから、山登りをする奴とはよく分からないものです。 山で天候が悪くて、一日テントに停滞する事を山屋は"沈殿"と言います。なんか憂鬱になる言葉ですし、今回の様な場合は、一日沈殿する毎にその後が大変にはなってきますが、でもあまりくよくよせずに、何でもいい方向に考えれば、案外これも楽しい時間です。
さて沈殿日にはいったい何しているのかと言うと、一日中お酒を飲んでいるもの疲れますので、トランプやUNOをやったり、山の話で盛り上がったり、山の歌でも唄って盛り上げたりしています。食べ物もまた楽しみの一つです。最近でこそフリーズドライやレトルト食品のおかげで、軽くて短時間に簡単に調理が出来て、食事の用意や荷揚げでの重荷からは解放されつつありますが、沈殿日の簡単な食事ほど味気ないモノはありません。じっくりとコトコト煮込んだペミカンでのカレーやシチューは、身体だけでなく心も温まります。皆さんペミカンってご存じでしょうか?元々のペミカンは、北米インディアン達の保存食で、乾燥した肉や魚を、脂肪、ドライフルーツと混ぜ固めたものです。栄養もあって携帯にも向くので、当初はアメリカの開拓者やハンター達が取り入れました。そのまま食べてもお湯に入れてスープにしても良くて、保存食の万能選手です。このペミカンに登山者が目をつけて、ちょっと昔の登山食と言ったらペミカンがメインでした。ですから、ちょっと古い山屋さんでしたら、誰でもその作り方を知っています。作り方ですが、まず肉や野菜を多めの塩コショウで炒めます。良く炒めたら大量のラードを混ぜてそのまま冷やし固めます。そのままこぼれないように密封して山にもっていきますが、山では、そのペミカンを適量に分けて水で薄めながら鍋で暖めて、カレーのルーを入れればカレー。シチューのルーを入れればシチュー、味噌を混ぜれば豚汁となります。同じ食材でバラエティがあるメニューが作れて、保存も利き栄養もバツグンですから、当時の私たちにとっては最高のごちそうでした。ギトギトのラードは、下界では食べる気になりませんが、山に入ればなぜか美味しく食べられます。
山での食事の話になったのでついでに……。 ペミカンなどは大勢で食べる方が楽しくていいのですが、1人や少人数で出かけた時は良くフライパン料理をしていました。山用のフライパン一つを持っていって、そのフライパンの中で色々な料理をします。フライパンの半分使ってオムレツを作りながら残りの半分でウインナーやハムを炒めて、ついでにアルミのコップをのせてコーヒーを暖める。全ての料理がいっぺんに出来ます。朝や沈殿日のおやつとして、油を浸したフライパンに、堅くなったフランスパンを細かくちぎって溶けるチーズをまぶして炒めたりもしました。グラニュー糖をかけたり塩コショウをかけたり、すりゴマやニンニクをかけたりで味のバリエーションが広がります。 最近は本当にこんな料理を山で作らなくなりました。考えればちょっと寂しい気がします。
さて今年のお正月は、山奥で沈殿となるか、はたまた予定をこなして下山して、我が家のおこたでミカンでも食べているか? どうなる事でしょう。
雪が大好きな"山岳一級遊び人" 川名 匡でした。 皆さん良いお年を!
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