現在、私は山と渓谷社のヤマケイ登山教室のツアーリーダーとして、北アルプスを登っている最中です。
ちょうど土曜日の放送時間には、上高地に居る予定です。
ところで皆さん、横須賀はどうでしょうか? 私はですが、結局、8月は、横須賀に合計で一週間も居ませんでした。7月8月の2ヶ月だけで、トータル40日も山に行ってしまいました。そして8月も終わりです。
と言う訳で、皆さんも色々な夏体験をしたと思いますが、今日は私の初めての夏山体験をお話しましょう。
年がバレバレですが、初めての夏山、つまり初めての山登りは私が二十歳の時でした。もう20数年も前のお話です。私にとって初めての山らしい山はかの有名な富士山でした。私は富士山で山登りに目覚めてしまった訳ですが、初めての山はけして楽しいばかりではありませんでした。むしろ苦しさの方が多かった記憶があります。なのになぜこんなに山に浸かってしまったのか…と考えれば、苦しい中にも何かしら魅力があったからだと思います。
まず、山登りなんか全然やったことがない仲間で富士山に登ろうという計画が出ました。そのころ、色々な所に遊びに行く仲間がいたのですが、その色々な場所のひとつとして、山登りが出た訳です。しかし全然山登りなんか分からない。すべてが初体験で、装備からコースまですべて未経験のに自分たちだけでの計画でした。ですから今から思うとどうしょうもない計画であった訳です。それでも足首まで覆う靴と懐中電灯と上下セパレートの合羽だけは用意しましたので、今から考えても、それだけは合格点でした。登山口は吉田口の五合目でした。河口湖の脇から上がっている、富士スバルラインの終点です。ここですでに2300メートルあります。吉田口から登った事がある方は知ってらっしゃると思いますが、5合目の登山口から6合目までは道は比較的緩やかです。スイスイ登れてしまいます。私たちも、スイスイと歩き始めて、「なんだ軽い軽い」とか「山頂まで一気に登るぞ!」とか息巻いていたのですが、考えが甘い事が分かったのは6合目をすぎた頃でした。6合目から登山道は一気に急斜面になります。メンバーは全部で20名以上だったのですが、一人減り二人減り、登り初めて数時間後には完全にバラバラの状態でした。個人個人のペースで個人個人が登る状態です。最終的に私は3人グループになってしまい、もう誰がどの辺を登っているのか全然分からない状態でした。夜中の12時に登り初めて、ガイドブックの山頂まで4〜5時間という言葉を信じて、ご来光は山頂で見られるつもりでいましたが、結局ご来光は本8合でした。 夜中に登っている事もあって、眠くなり、途中で寝たりして気が付くと1時間すぎていたり、10分歩いては20分休んだり、もうペース配分はバラバラでした。そのうち頭はガンガン痛くなってくるし、気持ちは悪くなってくるしで、何度中止しようと思ったかしれません。実際、八合目までで3分の1が登るのをあきらめて下山していました。そしてやっとの思いで山頂に登り着いたのはお昼の1時を回っていました。つまり山頂まで13時間もかかってしまったわけです。今考えても最悪の登山でした。もう頭はクラクラ、なにも考えられる状態じゃなくて、とにかく早く降りたいだけでした。結局登り着けたのは半数の13名でした。 これは完全な失敗談。今から考えても恥ずかしい話なんですが、山のこと何にも知らない若者達が、ただがむしゃらに登ったお話です。
私がその最悪の富士登山から数年後、同じような行程で同じような人数での登った富士山は、夜5合目についてすぐに登らず、車の中で仮眠を取って、夜明け前の3時頃に出発。前回と同じように20名前後の人数でしたが、すべて6〜7名の小グループに分けてすべてのグループにトランシーバーを持たせて絶えず現在地を報告しあって、けしてバラバラになることはせず、ペース配分もしっかり考えて、結局ご来光前に全員が山頂に到着しました。富士山初体験から2年後でしたが、たとえ2年間でも、その間に得た登山経験は無駄じゃなかったなあと、その時はつくづく感じました。
ところで、もう夏も終わり、富士山も8月31日で殆どの山小屋が閉まってしまいます。なのに何で今頃富士山のお話?と思うかもしれませんが、実は静かな富士山を味わうのは9月が一番と私は常々思っています。登山者も少なく、台風や秋の長雨に入らなければ、秋晴れの素晴らしいお天気に恵まれます。ちゃんとした登山装備を持ち、それなりの登山経験が有る方で、あの夏の殺人的な込み方の富士山に登るのを躊躇している方がいらっしゃいましたら、是非9月の富士山に登る事をお勧めします。
と言う訳で来週は夏とはちょっと違った、秋の山への登り方などをお話ししましょう。
山岳一級遊び人、川名 匡でした。ではまた来週
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