2002.10/10up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2002.04/20放送)

ヒマラヤ行き

ポカポカと、というより、暑い毎日が続いています。
4月とも思えない陽気だそうです。
私は暑いのが苦手なので、真夏はもう地獄の世界なのですが、春からこの陽気では先が思いやられます。それで、暑くなってくると、高い山に逃げると言う訳ですが、今年は夏になる前に早々と逃げなくてはならないかなと心配です。

と言う訳だからでも無いのですが、GWはネパールの5500メートルの山に登って来ます。
さて、いよいよネパール行きまであと一週間となりました。来週の今頃、4月27日の土曜日は、ちょうど成田空港をうろうろとしている予定です。 目的の山は、ネパールのランタン山群の中にある、ヤラピークという、小さなピークです。標高が5520メートルあります。最終キャンプからの高度差が800メートル程度。その最終キャンプまではトレッキングでして、登山といえる部分はその最後の800メートルの日帰り往復だけです。…と言う訳で、今回はそんなに厳しい山ではないので、気分的には楽なはずなのですが、今回は私がリーダーとなって総勢15名で行くので、その事へのプレッシャーが結構あります。技術的には、2ヶ所ほど、フックスロープと言って、命綱を張る部分がありますが、その辺りの練習はメンバー全員やってますので、おそらく問題ないでしょう。問題があるとすれば、高度順応です。高度順応とは、標高の高いところに行く為の体にするという意味で、主に空気が薄くなる為に起こる低酸素症状を少しでも緩和させる為のトレーニングです。皆さんご存じのように、人間は空気が無いと生きてはいられません。食べ物は何日間か、水は一日くらいは無くても生きていられますが、空気が無くなれば数分で意識がなくなってしまいます。そんな、人間が生きて行くのに重要な空気が、標高が高くなる毎に薄くなっていきます。富士山の8合目付近、標高3500メートルで地上の3分の2。今回のヤラピークの山頂がある標高5500メートル付近は、地上の半分の空気しかありません。空気の中に含まれている酸素は、脳の活動や筋肉を動かす為に必要不可欠な物です。空気が薄い事によって起こる高山病の症状は、まず頭痛から始まって、食欲低下、吐き気、疲労感、顔等のむくみ、セキや息苦しさなどの呼吸障害などがありますが、これらは誰でもある程度なってしまうもので、これが激しい頭痛や反射的にみられる嘔吐、オシッコの量の減少、思考力の低下、意識障害や視力障害などが出てきたらこれは重症の高度障害の徴候として警戒しなくてはなりません。私は一昨年前のヒマラヤで、実は20日以上下痢が続きました。食べ物や水、そしてストレス等が原因とも思われますが、酸素不足によって内臓の筋肉がうまく働かなくなってしまっていた事も原因の一つとして考えられ、これも高度障害の一つと言えます。もっとも私は、その20日以上続いた下痢のおかげで、結果16キロの減量になって、日本に帰り着いて自分のお腹周りを鏡に映してみて、こう…うっとりとしてしまいました。自分のぺったんこのお腹は久しぶりに見ました。まぁ、そのお腹も、半年も待たずに元通りとなってしまって、今は元のタヌキ腹となっています。ですから今回も、実はお腹をこわすのをちょっとだけ楽しみにしています。

今回も実際に持っていくのですが、パルスオキシメーターという計測機器があります。その人が、酸素をどの程度体の中に取り込んでいるのかを計る機器で、血中酸素飽和度(SpO2)を測ります。普通の若い人で、海抜0メートルでの酸素飽和度は100パーセント近い数値を示しますが、高所に上がるにつれてこの数値が低下していきます。しかし、高い場所にしばらくいると、この数値がまた上がってきます。実際にこの数値を計ることによって、その人が危険な状態にあるか、又は高度順応ができつつあるかを数値的に見る事ができます。 私の場合は、地上で98%程度ですが、前回のヒマラヤの4700メートルのベースキャンプに着いた時は、大体80%程度だった事を覚えています。それが5500メートルの上部キャップに上がった時は75%となり、一端下がった時は、同じベースキャンプで90%まで数値が上がっていました。この数値を見て、高度順応ができたという事が分かります。

と言う訳で、あと一週間後、いよいよ出かけますが、実はその前に、今週は富士山に登っています。富士山は日本で唯一、4000メートルの高度順応ができる場所です。今回も、この土日を使って、山頂に一泊してきます。順応を完成する為には、できるだけ長い時間その高度にいなくてはなりません。ですから、山頂でのんびりと過ごしてくるつもりです。もっとも、この時期の富士山は、雪もまだ沢山あって、気温も低く、全くの冬山状態ですので、天候が悪くなると非常に危険な場所となります。ヒマラヤへ出かける前に、風邪一つひいても、また足を軽くひねって捻挫しただけても登頂を断念しなくてはならなくなるので、富士山も慎重に登ってきたいと思っています。
また帰りましたらご報告しましょう。

山岳一級遊び人:川名 匡でした ではまた来週。

 

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