2002.10/10up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2002.04/13放送)

バテた話

山登りはきついと言います。
特に山登りの経験がない人たちは。殆ど口を合わせたかのように、何でそんなに疲れることをやるの?と言います。
では、他のスポーツ、この場合、山登りをスポーツの一つとして見るかどうかという事もありますが、それはとりあえず置いておき、まあ、爽快さや達成感、充実感が各種スポーツ共通な魅力と考えれば、山登りもそのスポーツのひとつだという考えの元で、他のスポーツも山登り同様、当然体を動かせば手足は痛むし疲れるし、同じようなモノだと思うのですが、ではなぜ山登りだけが他のスポーツと違って、殆ど口を合わせたかのように、「山登りは疲れるからいやだ」と言うのでしょうか? それは疲れてやる程の面白味は無いという考えでなんでしょうか? 近年特に、山登りをする人たちの人工は増えました。と言うことはやはり疲れるだけじゃない、やってみなけりゃ分からない魅力があると言うことでしょう。また、テニスや水泳やジョギング・マラソン等々、余暇として適当にやればそれなりに楽しいし、それこそそれだけにトコトン打ち込んで極めれば厳しいスポーツとなります。登山も全く同じでしょう。登山と一言で言っても、殆ど疲れないハイキングもあれば、究極は命の危険まである過激なモノもあります。四季折々の自然の中で、色々なジャンルで楽しめるのが、登山の魅力です。

さて、私も良く、登山をしていてバテます。本当に疲れ切った時は意識はもうろうとしてきて、記憶すらもなくなってしまう程です。昨年スイスで登ったモンテローザでの往復は、最近ではかなり疲れた山でした。さすがに、標高差2000メートル、途中にはフィドンクレパスという、いつ現れるかもしれない氷河上の落とし穴に緊張しつつ、なれない山での行動時間15時間はきつかったです。バテている時、疲れている時には、良く色々な事を考えます。帰り着いたら何を食べようかとか、この間見た映画のハイライトシーンとか、不思議と山のことは考えなくなるのは、今している事を客観的に考えたら座り込んでしまい、もう動けなくなってしまうかもしれないからという、自己防衛本能からでしょうか。一番現実的な、今の状況を見ている事があるとすれば、それは重たい荷物で曲がった腰で、道の石ころが色々な形をしていて目の前に現れては通り過ぎるのを、今の石はネズミみたいだったなぁとか、マッターホルンに似ているなぁとか、あんパンみたいだとか、石ころを見ながら次々に色々なモノが浮かんでは消えていく事でしょうか。疲れている時は、顔を上げればそこいら中に見える雄大な景色も、登り終えた感激も頭の中から飛んでいってしまいます。ただただ一歩一歩を踏みしめて、10センチでも前に進むこと。それだけを、脳みそを経由せず、体が淡々と実行しています。意識はもうろうとして、いつの間にか好きな歌をハミングしていたりします。頭と関係ないところで、登山という一歩間違えればまだまだ危険な場所がある所を、この体に身に付いた動きを、体が淡々とこなしているのです。 そしてその登山がジワジワと感激に変わるのは、実は山を下りてからで、山を登り初めてから下り付くまで、その間が数時間でも数日間でも、家に帰り着いて湯船に浸かった瞬間に思い出したりします。 私は山で入る露天風呂が大好きで、温泉も大好きですが、不思議と一番落ち着くのは、家に帰り着いて入る、なんの変哲もない家の小さなお風呂です。温泉でも何でもない、人工の入浴剤で色づけされた小さな湯船に、体をちぢ込ませて、足も伸ばせないし、本当はそれが一番好きなのに、ザバァ〜と湯船から思いっきりお湯をこぼすと奥さんにしかられるので、そうっとそうっと入る、小さな小さな我が家の風呂が一番落ち着くし、疲れが取れるのは、やっぱり頭のどこかに家庭や家族がいるからでしょうか。 そして、お風呂に浸かりながら、今回の山の感激に浸り、疲れて疲れて帰ってきた事はもう忘れてしまい、次の山の事などを考えてしまいます。

さていよいよ、今年のヒマラヤ行きも近くなってきました。 出発は4月27日ですので、あともう2週間後です。手軽に行ける山と違って、今回の山も、半年前から色々な準備を重ねて来ました。ゴールデンウィークと言うことで、一番大変だった航空券の手配。現地でのキャラバンでの食糧やポーターや、ネパールで購入する装備類の為の、現地エージェントとのメール交換。そして今回は、15名という大人数での登山の為、またメンバーの中に、経験の浅い者もいる為の技術トレーニングの数々、色々な準備の殆どが終わろうとしています。まだまだ、何か見落としている事は無いだろうかとか、もし、たとえばあんなアクシデントがあったらどう対処しようか、こんなアクシデントがあったらどうしようかと、心配事は絶えずあって、おちおち寝てもいられません。最後にもう一つ、出発一週間前の、高度順応の為の富士山でのトレーニングがありますが、それが終わればもう100%、準備は終了です。後はもう日本を出発するだけです。大きな山行は、その山をただ登る技術だけでなく、色々な事をしなくてはなりません。そのプレッシャーに潰されそうになる事も良くあります。しかしそれを乗り越えて行くことに、山へ行く事の魅力の殆どがあるとも言えます。

今週末は、ちょっと気分を変えるため、尾瀬の燧ヶ岳へ行きます。
また帰ったらお話しましょう。

山岳一級遊び人:川名 匡でした ではまた来週。

 

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