家の庭にある桜が咲き始めました。
咲き始めると一気にという感じで、毎朝眺めるのが楽しみです。日に日にポカポカと暖かくなって来まして、下界はもう本当に春です。体も何かしらソワソワし出します。そんな春の陽気に誘われて、先週は鷹取山で岩登りをしてきました。鷹取山には、清掃のボランティアなどで度々訪れていますが、岩登りを目的に出かけたのは本当に久しぶりでした。おかげで、もう何日か立つのに、まだ腕の筋肉が張っていて痛いです。
鷹取山は岩登りのトレーニング場所として有名ですが、トレーニングという割には難しいルートが多くて、下手な私にはかなり厳しい先生です。しかし久々にトライして、また通い出してみるかなと思ったりしました。他のことを何も考えられなくなる。頭の中が空っぽになって、頭だけでなく体全体が一つに集中する体験ができるのがクライミングです。大げさに言えば"無の境地"、簡単に言えば無我夢中という事です。これは終わった時の開放感がたまらなく癖になります。それは鷹取山の様なゲレンデと呼ばれている近郊の練習場でも、また谷川岳や穂高の岩場でも変わりありません。
鷹取山にも桜の木があります。今回は内緒でちょこっとスタンスに使わせてもらったりもしましたが、だいぶ大きくなってきました。これらは十数年前に、横須賀山岳協会の事業として我々が植えた桜です。大きな石仏の裏側、その名も桜エリアと言う場所ですが、この桜エリアという名前も、我々が植樹をした後についた名前です。毎年、下草を刈ったりの手入れをしていますが、これはなんと言っても春のお花見を楽しみにしているからです。先日はまだチラホラ程度の花びらでしたが、今週末はもうだいぶ開いている事でしょう。実は4月に花見を予定していますが、これはもう確実に葉桜見物になるでしょう。下界はそんな春の陽気でポカポカしていますが、今日はこれから富士山へ行きます。いくらか和らいではいますが、まだまだ富士山は冬山です。今月と来月にかけて、また何度か登りに行く予定ですが、今年も実は海外の山の予定があって、ここ何年かの海外登山の関係で、それまでは年に一度行くか行かないかだった富士山へ、毎年沢山登る様になってしまいました。このまま行くと、富士山が一番登っている山になってしまうかもしれません。
……なってしまうかも…と言うのは、
実は私は富士山が嫌いです。ただただ大きいだけの富士山は、私にとっての"山としての魅力"に欠けます。しかしなんと言っても日本一の高さがある山ですし、他の山に比べて、たとえば日本で2番目に高い南アルプスの北岳に比べても500メートルも標高が高く、群を抜いています。4000メートル近い標高があり、国内で唯一、高度順応のトレーニングができる山です。
"高度順応"とは、標高が高く空気が薄い場所へ行く為に、その空気の薄さ、気圧の低さに体をなれさせるという事です。当たり前の事ですが、人間は空気を吸わなくては生きてはいけません。 通常の地上の気圧は1013Hpですが、これが富士山の八合目にあたる3300メートルでは、地上の3分の2にあたる675Hp。標高5500メートルで半分の500Hpになります。ちなみに世界一標高の高いエベレストの山頂は250Hp。つまり地上の4分の1の空気しか存在しません。通常よりも薄い空気を吸っているのですから、脳や体に十分な空気(つまり酸素)を取り込む事が困難になり、体に色々な傷害が出てきます。たとえば、エベレストの山頂に、ドラえもんの"どこでもドア"を使って瞬時に移動したら、人間は短時間で失神してしまい、やがては確実な死が訪れる事でしょう。ところがこの人間と言うのは面白い生き物で、どんな環境にでも順応するという能力を持っています。今までいた場所、まずは普段生活している場所よりも空気の薄い場所へ移動して、その薄い空気に体をなれさせます。けして一気に登らずに、ゆっくり時間をかけてこれを繰り返し、やがて目的の山頂にたどり着くという訳です。登山技術や体力も大事ですが、標高の高い山に登る時は、この高度順応が一番重要なカギになります。体調が悪い人や個人差で、標高のあまり高くない2000メートルクラスの山でも頭痛や吐き気などの高山病になる事もありますが、通常、本格的な高度障害が出るのは、標高4000メートル程度からだそうです。そして唯一、日本でその4000メートルに近い高度順応ができるのが富士山の山頂という事になります。
今年の海外は、2度目のネパールヒマラヤです。目的の山の標高は5520メートルと、さほど高くは無いのですが、それでもしっかりと準備をして行かないと、えらい目に遭うのは確かです。行くのはゴールデンウィーク。計画は約1年前から立てていましたが、早いものでもう後1ヶ月しかありません。それまでに富士山は、予定では今回とあともう一回ですが、できれば何度でも登っておきたいと思っています。
と言う訳で、来週からはまた、ネパールのお話でもしましょう。
雪が大好き。でも桜の春も好きな一級遊び人:川名 匡でした ではまた。
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