2002.10/10up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2002.03/02放送)

雪山とヘリコプター

最近はいつもの冬とちょっと違って、あまり寒くない冬が続いています。
どの山に行っても、例年に比べて少し雪が少ないかなという印象です。
暖かいという事は、下界暮らしの皆さんにとっては過ごしやすい日々でしょうが、やっぱり真冬の厳しさを味わいたいというちょっと変わった趣味の私からすれば寂しい限りです。
先日、そのちょっと暖かい陽気の中、お仕事で越後湯沢まで行って来ました。越後湯沢はもう20年近くも前から、毎年毎年出かけています。一泊二日の短い仕事でしたが、お仕事とはいえ、たっぷりとラッセルを楽しんできました。

みなさんラッセルって知ってますか? 
一般にラッセルと言うと、雪国で走っている雪をかき分けて走るラッセル車を思い出しますが、登山の世界では、そのラッセル車と同じように、雪をかき分けて歩く事を"ラッセルする"と言います。ラッセルと一言で言っても、雪の量や雪質でだいぶ変わってきます。ひざ下程度のラッセルから、ちょっときつくなる太股や腰までのラッセル。そして背が立たないほど潜ってしまうようなラッセルもあります。私の一番の経験は、以前、お仕事で行く雪山にヘリコプターから飛び降りて、頭まで潜ってしまった事がありました。お仕事の話は前にも何度かしていますが、歩いて行くには時間がかかってしまうような山にはヘリコプターで入ります。先日のお仕事もアプローチはヘリコプターでした。

さて、あまりに深い新雪の場合、その雪面にヘリが着地しようとすると、降り積もったフカフカの新雪が舞い上がって全くのホワイトアウト状態になってしまう事があります。またしっかり着地してしまうとヘリコプターの機体そのものが雪の中に埋まってしまって今度は離陸できなくなってしまうので、そんなフワフワの雪に降りようとするときは、雪面に着くか着かないか程度のホバーリング状態で、人だけ降りる様にします。通常、一週間程度、雪が降り続いても、新潟の雪は重いので、そんなに潜ることは無いのですが、飛び降りて頭まで潜ってしまったことが、過去20年近くこの仕事をやっていて一回だけありました。そのときは、雪をかき分けてラッセルするのに夢中で、ほとんど泳いでいるようにもがいて、何とか脱出できました。ほんの十数メートル移動するだけで3〜40分もかかってしまいました。あとにも先にも、あんなすごい雪はもう無いでしょう。 ラッセルもひどくなると、雪上に足で立つと言う雰囲気ではなくて、雪面に四つんばいになり、本当に泳ぐ様な格好になります。ゴロゴロ転がる方が早い位です。

 ところで、ラッセルの話からヘリコプターの話が出ましたので、ヘリの話もちょっとしましょう。
登山をしていてヘリコプターと言うと、何となく"遭難救助"みたいなイメージがあって、余りいい気分はしませんが、お仕事では、やはり抜群の機動力を発揮してヘリに良く乗ります。ヘリを使った私の仕事は大きく分けて二つ、ヘリを移動手段として使う。つまり高い山の上に短時間で連れて行ってもらって、お仕事が終わったらまた迎えにきてもらうという使い方です。これだと、歩いて登ると途中に危険な場所があったり、また何時間もかけなくては往復できないような場所にすぐに入れます。そしてもう一つの使い方は空中からの地形や雪の積もり方の調査飛行でした。今はほとんどが移動手段として乗るだけですが、10年ほど前にはこの調査飛行のお仕事が沢山あって、ほとんど毎週毎日ヘリに乗っていました。頻繁に乗っていた年は、ひとシーズンで100時間以上も乗りました。でもヘリに乗ってお仕事をしなくてはいけない調査飛行よりも、やはり気持ちがいいのは移動手段として乗ってるときです。冬山が好きな人間には応えられない景色を見る事ができます。そのお仕事移動の中で一番楽しい飛行ルートが、新潟の越後湯沢から福島の檜枝岐への飛行です。直線距離で片道50キロ、行って帰って1時間弱のフライトです。いつものコースを新潟から福島へ飛ぶと、まず巻機山と言うどっしりと格好のいい山の上を飛び越えて、奥利根ダムを下に見ながら、次は平ヶ岳の上を飛びます。次に現れるのが至仏山と尾瀬ヶ原、そして燧ヶ岳です。そしてやがて会津駒ヶ岳へ到着するというフライトですが、途中に日本の秘境と言われている、奥利根源流の真っ白な山々を飛び越えるのが本当に最高の気分になります。見渡す限り人っ子一人いない雪山の上を飛ぶのはとても気持ちが良くて、ついつい景色に見とれてしまいます。 このコースは、何度乗っても見飽きない景色です。

さて、と言うわけで、今日はラッセルからヘリのお話になってしまいました。
ず〜っとずっと、毎週末には山に入っていましたが、今日明日の週末は久々に山に行かない日になりました。
と言ってもやることは沢山あるのですが、とりあえず、世間の人達と同じ週末を過ごしています。
たまにはこんなのもいいでしょう。

冬とそして雪が大好きな一級遊び人:川名 匡でした ども

 

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