2002.10/10up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2002.02/16放送)

冬を楽しむ

先週は上州・武尊山に登って来ました。
登ってきたと言ってもずっと吹雪いていたので結局最初のピークまでしか行けず、結果としてそこから下ってしまいましたが、一晩中吹雪く風でテントが揺れていて、なかなかワクワクする様な状況を楽しんで来ました。
上州武尊は、富士山のようなきれいなカルデラ式の火山の山頂部分を崩した様な形をしていて、小さなピークが沢山あります。それらを縦走するととても面白い山で、ぐるりと周りにスキー場が沢山あるのでアクセスも比較的楽です。

ところで、今回も都合2泊、雪山で寝てきましたが、皆さんは雪山で雪に囲まれて寝るという事を想像できるでしょうか?
 たぶん、感覚的に寒いんだろうなと思うでしょう。
勿論マイナス温度の世界ですから、寒いのは当たり前なのですが、実は1日を通して、そんなに寒さを感じる事はありません。朝早く、気温はとても低いですが、歩き出せば体がすぐに温まって来ます。冬用の暖かいウエアーを身につけているので、急な登りなどは汗ばむ程です。一日の行動を終えてテントに入るとテント内ですぐにコンロの火をつけます。外気温が寒くても、テントの中はすぐに暖まって来ます。コンロはずっとつけっぱなしですが、さすがに夜になって寝る時は消します。それでもテントの中が冷える前に暖かいシュラフに潜り込みます。寒いと言えば、夜中にトイレに起きた時くらいでしょう。そんな訳で、先日私も人並みに風邪を引いてしまいましたが、それも実は山の中でなく、家に帰ってきてからの事でした。ついつい薄着で、夜中中パソコンなどに夢中になっていて、ふと気がつくと寒さで体が冷え切っていたりしますが、山にいる時よりも自宅にいる時の方がよっぽど寒い気がします。 さてもう一つ雪のお話。

 雪上歩行具として、日本では昔から木や竹で作ったかんじきという道具があります。ちょうど忍者が池の上を歩く道具のように足に履いて、かんじきは雪の上を歩きます。足裏の接地面積が増えて、足が雪の中に潜り込まない役目をします。その日本のかんじきのライバルとして最近グッと市民権を得てきたのがスノーシューです。かんじきはまん丸に近い楕円形をしていますが、西洋カンジキであるスノーシューは細長のテアドロップ型をしています。その滴型の細い方を後ろにして、足を引きずるように歩くことで、高い直進性能を発揮します。それに対して和カンジキは引きずらずに確実に足をあげて踏み込んで歩きます。ですからたとえば広い雪原でカンジキとスノーシューの競争をすると、断然スノーシューが有利ですが、より深い雪の中の上り下りとなるとカンジキの方が歩きやすくなります。私は両方使っていますが、特に急な斜面の下りなどはスノーシューを履いていて何度も転げた事があります。やはり広い原野を歩くために生まれたスノーシューと急峻で雪の深い日本の山岳地で生まれたカンジキの差でしょう。ですから、外国製のカンジキでも、ヨーロッパアルプスなどでうまれた山岳地用のスノーシューは比較的日本のカンジキに似通った形をしています。またそれと逆に、北海道のアイヌ達が使っていたテシマという名前のカンジキは、一般的なカンジキというよりも、スノーシューに近い形をしています。カンジキとスノーシューの大きな違いは足の固定方法です。スノーシューはつま先からかかとまで、足全体を固定して履きますが、一般的なカンジキは足のちょうど中心である土踏まずから足首を固定します。その固定方法で、カンジキが足全体に固定されるのではなくて、土踏まずを中心にしてフラフラと動くので、雪の斜面に合わせてちょうどいい形になります。これにより、急斜面の上り下りが容易になるという訳です。カンジキを履いての歩き方ですが、コツはカンジキを逃がしながら歩く事です。スノーシューに比べれば小さなカンジキですが、それでも雪の中に潜り込んだカンジキの抵抗は馬鹿にならないものです。ですから雪に踏み込んだカンジキはけして雪の中の抵抗に逆らって無理矢理引き抜くのではなくて、前に進む力つまり重心移動に合わせて自然に引き抜く動作をします。これはお話では良く説明しきれないのですが、ちょうど水を泳ぐ時の腕の動きに似ています。まず力を入れて手のひらを広げて水をかきます。その手が後ろになったところで、今度は手をまた前に出す訳ですけど、その前に出すときに同じように手のひらを広げて水の抵抗を一杯にひろったら、結局前には進まなくなってしまう訳です。ですから後ろに行った手を前に出すときはなるべく抵抗のない形で引き抜く訳です。それと同じ動作を雪の中でやる訳です。良く、はじめてカンジキをはいて深い雪の中を歩くと、強引にもがくためすぐに疲れてしまいますが、後ろ足を引き抜く時に抵抗を無くして体の重心移動ですっと引き抜けばほとんど力がいりません。ですから履き慣れた人とそうで無い人とは疲れ方が全然違ってきます。これはカンジキを履いている時だけでなく、普通にラッセルをしている時にも言える事です。

さて、早いモノでもう2月も後半となり、いよいよ3月になれば春の足音が聞こえてきます。豪雪地帯の雪国でも、そろそろ雪の降り方が落ち着いてきて、3月からはどんどん雪も締まって来ます。雪がしまってくると、山はどこでも歩けるようになって来ます。
ますます楽しい季節がやってきます。

山岳一級遊び人、川名 匡でした。ではまた。

 

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