2002.10/10up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2002.02/09放送)

冬のお仕事と雪崩の話

先週はお仕事で越後湯沢まで行って来ました。
早いモノで、この仕事を初めてもう19年目になりますが、初めて行った現場が越後湯沢でした。
その後、新潟だけでなく、長野・福島・群馬・山梨、そして北陸や山陰の方まで、色々な場所に行きましたが、結局今でも行ってるのはこの越後湯沢だけでして、この新潟の山とはだいぶ長くつきあっています。冬のシーズンといっても、いつもは平日に行って平日に帰ってくるのですが、先日は土日がちょうどお仕事だったので、久しぶりににぎわっている湯沢を見てきました。

ところでたまにお話しする"お仕事"ですが、私は現在、主に新潟で、雪と氷の観測をしています。今やっているのは電線に着く着氷雪の観測です。横須賀でも、春先のベタベタの大雪が降ったときの天気予報で、"着雪注意報"というの出る時があります。電信柱の電線に雪が沢山くっついて、大きくたわんでいる姿を皆さんも見たことがあると思いますが、あの電線着雪が大きくなると、電線が切れたり、最悪は電信柱や大きな鉄塔まで倒れてしまう事があります。それだけ雪の重さと言うのは大きくて馬鹿になりません。で、その為に、どのようなメカニズムで電線に雪が着いて、さらに大きく発達していくのかと言うことを実際に雪が降っているフィールドで検証しようという試みです。また雪氷関係の仕事は、この着氷雪関係だけでなく、雪崩の観測や実験、雪の吹き溜まりや雪屁の観測などもありました。つまり一年の間で、雪が降ったり積もったりしている期間が、私が仕事人になる期間となります。
 と言うわけで、前置きが長くなりましたが、今日は私のお仕事でも関わった事のある、雪崩のお話をしましょう。

雪崩はそこに雪が積もっていて、その雪が滑り落ちるだけの斜面があればどこでも発生する現象です。ただ、雪が斜面をたえず滑り落ちていれば大した影響は無いのですが、その雪がある程度まで斜面に積もってその重さに耐えられなくなった時に大量の雪を一度に滑り落ちてくる場合にはとても巨大なパワーとなります。記録では、鋼鉄の鉄塔を根元からなぎ倒したり、二階建ての立派な家を完全に押し流したりする雪崩もけして希ではありません。ただし、そんな巨大なパワーを出すのは春先に起きる底雪崩です。底雪崩は、ほとんどの場合は場所も雪崩れる期間も毎年決まっていて、比較的容易に予知する事が出来ますが、我々登山者が遭遇して恐ろしいのは底雪崩れつまり全層雪崩れではなくて、表層雪崩という比較的小規模のどこで起こるか分からない雪崩です。表層雪崩と一口に言っても、大小さまざまですが、そのほとんどは大きな木もえぐってしまうほどのパワーはありません。ただし、その雪崩れに人間が巻き込まれると、これは大変です。ホンの数十メートル巻き込まれて流されただけでも雪の中に埋もれてしまい、一人で脱出するのは困難です。

私も以前、小規模な雪崩れに巻き込まれた事があります。ふと気づくと、自分とその周りの雪が流されていて、見る見るうちに体が埋まっていきました。その状況はスローモーションのようで、とても不思議な体験でしたが、幸い頭まで埋まるほどではなかったので、自力で脱出出来ましたが、もう少し規模のでかいものだったら、はたして自力で脱出出来たかどうかは分かりません。

よく雪崩は、(この場合は表層雪崩の話)朝よりは日中の暖かいときや日が射して雪がゆるんだ時に起こると言う、間違った認識がありますが、実際には雪の斜面があればいつでも発生します。晴れた日中に起きなくて、真夜中に雪崩れる事もあります。ようは斜面と積雪の力関係で、その均等が保てなくなったときに発生します。一番危ないのは顕著な弱層帯がある時です。先日のお仕事の山でも、登山靴の下に弱層帯が感じられ、斜面を通過する時は少し緊張しました。

何日もかけて沢山降り積もった雪の層と言うのは均一な層ではありません。沢山降って積もり、一段落して晴れ間が出たときに積雪の表面が暖まって雪が溶けさらに夜になってその溶けた部分が今度は堅く凍りつきます。そしてその上に新たな雪が積もれば、その場所の上に積もった雪が滑りやすい弱層帯が出来上がります。そしてその弱層帯の上に積もった雪が、何かのきっかけで雪崩となって滑り出すと言うわけです。そんな雪崩の怖さを知っている登山者は、雪の沢山積もった場所を歩くときに、弱層テストをします。弱層テストと言うのはとても簡単です。手で抱えられる程度の大きさで積もった雪をかき分けて雪面を頂点とした雪の塔を作ります。そしてその塔に腕で圧力をかけ、容易に崩れるようだったら顕著な弱層帯があると言うわけです。このテストで分かるほどの弱層帯があるような時は、もういつ雪崩れてもおかしくない時で、そんな日はたとえ晴れていてもあまり行動するべきではありません。 この横須賀では殆ど縁のない雪崩のお話でしたが、雪崩のこと、少し分かったでしょうか?

今週は、上州・武尊山に登ります。信州にある穂高岳ではなく、ブソンと書く武尊山です。隣にある赤城山のせいでしょうか、あまり有名ではないのですが、実は標高が2000メートル以上ある立派な独立峰です。 今冬は沢山雪が積もっている様で、ラッセルが大変でしょう。ラッセルとは、皆さん雪国で活躍するラッセル車をイメージしてもらえば分かるでしょう。深い雪をかき分けて進む事です。雪まみれになってる自分をそう想像すると、ちょっとワクワクします。また帰りましたらご報告しましょう。

山岳一級遊び人、川名 匡でした。ではまた。

 

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