2002.10/10up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2001.12/29放送)

年越しの山

今年もいよいよ残りわずかとなりました。
この一年も、相も変わらず半人前の私が、色々とお世話になった方、沢山沢山いらっしゃいました。
この場をお借りしてお礼を言わせていただきます。どうもありがとうございました。
そして、来年も益々お世話かけます……とも言えないのですが、ひとつよろしくお願い致します。

さて、いよいよ今年も秒読み状態ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか? 
何となく、何か忘れてはいないかとか、やり残したことは?とか、なぜかソワソワしてしまう今日この頃です。
私はと言いますと、この放送が始まる頃にはすでに山に入っています。行くところは八ヶ岳です。例年通りの場所なのですが、今度のお正月は本当に久しぶりに年末から山に入ることになりました。年越しと言えば紅白を見たり、行く年来る年を見たり、港に汽笛を聴きに行ったりと、極々普通の私でした。ここ何年かは、大晦日と正月元旦は家族と過ごして、1日の夜から出発するパターンだったのですが、今回は久しぶりに年末から入山して山の中で年越しをする事にしました。 山に入ると夜は非常に早く寝ます。それでも小屋泊まりの場合は、大体が8時から9時頃に消灯ですが、テントの場合は、明るい内に夕食を済ませて、夜の7時頃にはもう寝る支度をします。8時となれば真夜中で、夜更かししているテントが他のテントから「何時だと思ってるんだ!」と怒鳴られたりします。下界では考えられない感覚ですが、朝が早いのでこれもうなずけます。朝は3時頃にはもうゴソゴソしだします。4時に朝飯の支度を始めないパーティは朝寝坊と言えます。5時台に出発してその日の行動はお昼過ぎには終わるようにします。食事は、普通の冬山は比較的質素ですが、正月くらいは豪華にしたいものです。元旦はやっぱりお雑煮でしょう。お餅は、冬山の食材として重宝します。コンロに網をのせて、プックリとふくらんできたお餅を見ながらちびりちびりとお酒を飲めば、身体も暖まってくると言うモノです。今年のお正月も、天候は今一の様ですが、ずっと晴れるのも私のようなそろそろ身体にガタが来ている者には辛いモノがあります。今回は一週間ほど入山しますが、連日快晴なんて事になったら、おそらく数日でボロボロになってしまうでしょう。今回の予定も、ちゃんとと言っていいかどうか分かりませんが、天候が悪くなる日が何日かはあるだろう事を予測して、連日ハードなルートへ行く計画を立てています。もちろん山に登りに行く訳ですから、天気が悪くて登れないのもシャクですが、それでも、連日快晴がつづいて毎日毎日ハードに身体を動かしていると、朝起きてテントを開けたら吹雪だったなんて日は、1人でちょっと"ニコッ"としたりしてしまいます。 山で天候が悪くて、一日テントに停滞する事を山屋は"沈殿"と言います。なんか憂鬱になる言葉ですが、でも案外これも楽しい時間です。

さて沈殿日にはいったい何しているのかと言うと、一日中お酒を飲んでいるもの疲れますので、トランプやUNOをやったり、山の話で盛り上がったり、山の歌でも唄って盛り上げたりしています。その昔の猛者達は、沈殿を見越して、本格的な麻雀卓と麻雀セットをテントに持ち込んだりもしていました。食べ物もまた楽しみの一つです。最近でこそフリーズドライやレトルト食品のおかげで、軽くて短時間に簡単に調理が出来て、食事の用意や荷揚げでの重荷からは解放されつつありますが、沈殿日の簡単な食事ほど味気ないモノはありません。じっくりとコトコト煮込んだペミカンでのカレーやシチューは、身体だけでなく心も温まります。皆さんペミカンってご存じでしょうか? 元々のペミカンは、北米インディアン達の保存食で、乾燥した肉や魚を、脂肪、ドライフルーツと混ぜ固めたものです。栄養もあって携帯にも向くので、当初はアメリカの開拓者やハンター達が取り入れました。そのまま食べてもお湯に入れてスープにしても良くて、保存食の万能選手です。このペミカンに登山者が目をつけて、ちょっと昔の登山食と言ったらペミカンがメインでした。ですから、ちょっと古い山屋さんでしたら、誰でもその作り方を知っています。作り方ですが、まず肉や野菜を多めの塩コショウで炒めます。良く炒めたら大量のラードを混ぜてそのまま冷やし固めます。そのままこぼれないように密封して山にもっていきますが、山では、そのペミカンを適量に分けて水で薄めながら鍋で暖めて、カレーのルーを入れればカレー。シチューのルーを入れればシチュー、味噌を混ぜれば豚汁となります。同じ食材でバラエティがあるメニューが作れて、保存も利き栄養もバツグンですから、当時の私たちにとっては最高のごちそうでした。ギトギトのラードは、下界では食べる気になりませんが、山に入ればなぜか美味しく食べられます。  山での食事の話になったのでついでに……。 ペミカンなどは大勢で食べる方が楽しくていいのですが、1人や少人数で出かけた時は良くフライパン料理をしていました。山用のフライパン一つを持っていって、そのフライパンの中で色々な料理をします。フライパンの半分使ってオムレツを作りながら残りの半分でウインナーやハムを炒めて、ついでにアルミのコップをのせてコーヒーを暖める。全ての料理がいっぺんに出来ます。朝や沈殿日のおやつとして、油を浸したフライパンに、堅くなったフランスパンを細かくちぎって溶けるチーズをまぶして炒めたりもしました。グラニュー糖をかけたり塩コショウをかけたり、すりゴマやニンニクをかけたりで味のバリエーションが広がります。

最近は本当にこんな料理を山で作らなくなりました。考えればちょっと寂しい気がします。
と言うことで、今年の正月はペミカンが食べられるでしょうか?

雪が大好きな"山岳一級遊び人" 川名 匡でした。 皆さん良いお年を!

 

 ← 前週の放送    トップページ    次週予告 → 


E-Mail : Tadashi Kawana [Copyright(c)1999]
槍ヶ岳