1999.10/06up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1999.08/21放送)

夏山報告(1) 〜キャンプでの危険〜


 そろそろ子供達も夏休みの宿題の心配をする時期になりました。夏もあっと言う間に過ぎてしまって、辺りが暗くなると、すでに秋の虫達の鳴き声が聞こえたりします。さてそんな楽しかった夏休みに、幾つかの悲しいニュースもありました。
 丹沢の玄倉川は、丹沢の黒部と言われている渓谷のとても綺麗な川です。私達、沢好きの山屋にとっては、同角沢、ザンザ洞、そして小川谷廊下と魅力的な沢が目白押しの渓谷です。私はお盆の一週間ほど、北アルプス最北部にあります剱岳という山に登っていました。降りてきたらこのニュースで大騒ぎの状態でした。皆さんはもうすでに、色々なニュースを見聞きしてご存じだと思いますので、事故の経緯に関してはコメントを控えます。そして、死者にむち打つようで心苦しいのですが、やはりこれは雨の中、中州という危険な場所でキャンプをして、さらに度重なる警告を無視した大人達の責任は重大でしょう。可哀想なのは子供達です。今後はこの事故を教訓として、二度とこんな事のないように、アウトドアーを楽しむすべての皆さんが安全に楽しく山遊びができるようになったらと思います。

 さて私も河原でキャンプをする事はよくあります。そんな中で、特に危険な行為とそれを回避する為の場所選びなどのお話をしましょう。
私がまずキャンプをしようとする河原に着いたら何に重点を置いてテントを張る場所を選ぶかと言うと、日射しです。特に夏の日射しは強くて暑いですから、河原でも比較的山の近く、木陰を選んでテントを張ります。次に探すのがトイレの場所。これも特に女性がグループに居る場合は重要です。下流の草むらの中に、適当な穴を掘ってトイレ作りをします。今回問題になった中州についてですが、日陰が無くて直射日光があたり暑い。風が吹くとこれまた強い。大きな石がゴロゴロしていて整地が面倒と、雨による増水が無いとしても、あまりいい条件ではありませんので、私はまず張りません。また大雨などが予想される時は、元々キャンプなどしませんし、今回のような時には直ぐに安全地帯に逃げますが、それでもそんな時にどうしても河原でキャンプをしなくてはいけない時などはどうするかというと、まず避難場所を確保する事、撤収作業がスピーディに行えるように必要最小限以外の装備は梱包してまとめて置く事。大雨が予想される時はけして熟睡せずに川の水位を常に注意している事などがあげられます。ただこれは、前にも言ったようにどうしてもテントを張らなくてはならない時です。
  さてではどんなときにどうしてもという状況があるのかといいますと、私達はよく沢登りに行きますが、沢のコースによっては一日では抜けられないような長い沢があります。そして周りに登山道もなく、その沢を遡るしか行動方法が無い場所で、野営する場合です。突然、予期せずにお天気が急変して、なおかつその沢からは一日では出られない時には、どこかで野営をしなくてはならないわけです。もし大雨が降ってきたときに、その沢が急激に増水するかそれほどでも無いかは、その沢の上流域の面積や地質、植生にもよりますが、その為の準備だけは怠る訳にはいきません。とても危険な状況の時は、テントも張らずに高台の岩の上でウトウトするだけという場合もあります。ただしこの場合も、沢の増水だけでなく、崖崩れなどにも注意を払わなくてはなりません。大雨の時は、今まで何でも無かった窪地に突然川ができて、増水した川には流されなくても、孤立してしまう事もあります。私も何度か、山の中で大雨をやり過ごした経験がありますが、川の中を自動車ほどもある大岩がゴロンゴロンと大地に響く音を立てて流れていく様は、生きた心地がしません。以前私が経験した中では、河原に面した某テントサイトで、台風が近づいていて大雨が十分予想できる状況であるにもかかわらず、河原にテントを張っている人たちが何パーティか居て、ビックリしました。私達は高台に十分に張り綱などで補強したテントを張って一晩頑張りましたが、朝起きたら案の定、河原は水で埋まり、川の流れにプカプカと浮かんでいるテントや、木や大岩に引っかかり無惨に壊れたテントなどを目撃しました。幸いにもそれらのテントで寝ていた登山者達は、夜中に近くの山小屋に全員避難して事なきを得ましたが、その時も小屋の人たちが、危険だから河原に張るのは止めるようにと何度も忠告していたのに、結局大事な装備を流してしまった人たちでした。その時は私達も、登山道が土砂崩れで通れなくなり、一日孤立しましたが、装備とも無事でした。 自然は私達が想像もできないことをします。その自然の中で楽しませてもらっている私達は、常に謙虚な気持ちとまた警戒心を持って、我が身は自分で守るという意識が大事でしょう。その心構えが自然の中に我が身を置く醍醐味でもあるのです。私は臆病ですから、山が穏やかな時だけ、ほんの少しの楽しみを分けてもらっています。

  今日は私の夏山のお話をするつもりだったのですが、 ちょっと違う話をさせてもらいました。 山は怒ると怖いです。皆さん余裕を持って山を楽しみましょう。けしてあなどってはいけません。 最後に、今回無くなった方達のご冥福をお祈りします。 これからも玄倉川に行くこともありますが、その時は手を合わせたいと思っています。

  これからも山岳一級遊び人、川名 匡でした。ではまた




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