1999.10/06up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1999.08/14放送)

なぜバテるか?


 今現在、私は北アルプスの剱岳を登っているはずですが、今頃何をしているのでしょうか?
 さて、山登りは、きつい、疲れるといいます。確かにそうなのですが、それでも登りたいだけの魅力が山にはあります。そしてその登り方次第で、疲れ方を和らげたりもできます。ではなんで疲れるのか、なぜバテるのかというお話をしましょう。

  バテには色々な要素がありますが、まず[酸素不足のバテ]のお話をしましょう。

[酸素不足のバテ]
 人が運動をするとき必要なパーツが筋肉ですが、山を登るときもこの筋肉をフル活用する訳です。筋肉を動かす為には酸素が必要になります。ですから、山を登っていて、ハアハアと息が荒くなるのは、この筋肉を動かすことに必要不可欠な酸素を体に取り入れているからです。しかし、酸素を補給すると言っても自ずと限界があって、その限界を超えると筋肉が酸欠状態となります。さて筋肉が酸欠状態となると筋肉の中に乳酸という物質が発生します。乳酸が発生すると、筋肉から血液中にまで広まって、体全体の酸性度が高まります。その結果、筋肉の硬直や痛みを引き起こしたり、呼吸機能にも影響して息苦しくなったりもします。その乳酸の発生は、無理のないスピードで歩いているうちは大丈夫なのですが、ある時点を越えると突然発生するという特徴があります。このある時点を専門用語で[無酸素性作業閾値(いきち)]略して"AT"と言います。これがバテるかバテ無いかの分岐点で、このAT以下のペースを保てば長時間にわたってバテる事無く歩き続けられると言うわけです。つまり自分のペースを知り、そのペースを守ると言うことです。
  次が[エネルギー不足のバテ]です。

[エネルギー不足のバテ]
 人が活動するためには様々な栄養素が必要ですが、そんな栄養素の中で運動する為に必要なものが炭水化物(グリコーゲン)と脂肪です。登山などの運動を行っている時、炭水化物と脂肪を半分ずつ燃やしてエネルギーにしています。なぜならば脂肪は炭水化物と混合しなくては燃えないからで、またやっかいなことに、脂肪は丸一週間分ほどの量が体に蓄えられますが、炭水化物はほんのわずかしか蓄えられません。炭水化物が無くなるとどんな障害が現れるかと言うと、筋肉が疲れて動かなくなるのは勿論、脳や神経などの人の行動を支配する部分の動きも鈍くなり、バランス感覚や集中力や判断力の低下が起き、登山をする上でとても危険な状態になる訳です。つまり、脂肪は普段からケーキやドーナツでこのおなかに蓄えて置けますが、登山中は炭水化物がたっぷりと含まれた食品を行動食として小刻みに摂る事が必要です。あまり多くない量を最低でも2時間おきには摂りましょう。山ではお昼はありません。山頂での昼食を重視して、水だけで何時間も頑張ったりすると、エネルギー不足に陥って、結局バテてしまいます。ですから、山では行動食と言って、朝食と夕食の間は、休憩のたびに軽く食べる事が常識です。炭水化物を沢山含む食品は、ご飯やお餅、麺類、パンなどのでんぷん類と、飴やチョコレートなどの糖類があります。これらの中で、グリコーゲンの材料として優れているのは、餅です。ただ餅は消化するのに少し時間がかかりますので、できれば朝食として、出発の2時間ほど前に餅入りラーメンや力うどんを食べて、行動中に飴やチョコレートを食べればベストとなります。 ただし、前にも言いましたとおり、山登りの何日も前から、運動もしないで炭水化物を一生懸命とっても、一定量しか蓄積できないので、意味がありません。摂りすぎた炭水化物は、脂肪に回されて、私のような狸腹になってしまいますので要注意です。 さて最後に[水不足のバテ]です。

[水不足のバテ]
 その昔、水はあまり飲むなと言うのが登山の常識でした。しかしこれは、現在では非常識となっています。人は運動をすることにより、筋肉が発した熱で体温が上昇します。人間は体温が42度以上に上がると循環機能が著しく低下して死に至ります。登山を始めとした様々な運動で体温が上がりすぎて死なないのは、発汗による放熱作用とそれを支える水分摂取があるからです。たとえば夏の縦走登山では、一時間あたり0.5リットル前後の水分が、汗と吐く息の水蒸気として失われると言われています。また水を飲まずに脱水症状が続くと、疲労や持久力の低下、熱射病や筋肉けいれん、むくみや血栓などの様々なトラブルが発生します。 さてでは登山中にどの程度の水を飲んだらいいのかというと、体質や行動内容や天候にもよりますが、平均的な脱水量を計算すると、体重60キロの人が8時間の登山をした場合、一日2.4リットルの水が必要になり、最低でも脱水量が体重の2パーセントにとどめるだけの水が必要と言われています。 水の取り方ですが、まず歩き出す前に飲む。そしてこまめに摂る事も必要です。また胃は温度が低い方が活発ですので、暑いときには冷たい水の方が吸収が早く、また体の中から直接体を冷やせるという効果があります。さらに重要なことは、のどの渇きを感じる前に飲む事です。

  さて時間も無くなってきましたのでまた次週としますが、次週はバテてしまった後のお話などをしましょう。
夏真っ盛り 涼しい山に避難中の一級遊び人、川名 匡でした。ではまた


※参考文献:「いきいき健康登山」(山と渓谷社)



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