1999.5/18up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1999.03/06放送分)

カンジキとスノーシューの話

 新潟もすっかり春っぽくなってきました。仕事場はまだ1メートル以上の雪が積もっていますが、それでも除雪された道路端にはふきのとうが顔を出していますし、晴れた日中になれば一日中、ポタポタポタポタと雪解けの音が聞こえています。先日はヘリコプターに乗って山の上を飛んできました。山はまだまだ真っ白ですが、その白さも真冬の厳しい何もかも包み込むような純白では無くて、太陽を一杯受けたギラギラとにぎやかな白でした。おかげでその日一日で鼻の頭の皮がむけてしまいましたが、これからは日焼けの時季だなとつくづく感じました。サングラスは手放せません。私が年甲斐もなく真っ黒な逆さパンダ焼けになるのももうすぐでしょう。
 さてそんな季節は、なんと言っても雪遊びのベストシーズンです。先週は雪洞のお話をしましたが、今日は雪の上を歩き回る道具たちのお話をしましょう。

 雪上歩行具として、日本では昔から木や竹で作ったかんじきという道具があります。ちょうど忍者が池の上を歩く道具のように足に履いて、かんじきは雪の上を歩きます。足裏の接地面積が増えて、足が雪の中に潜り込まない役目をします。その日本のかんじきのライバルとして最近グッと市民権を得てきたのがスノーシューです。かんじきはまん丸に近い楕円形をしていますが、西洋カンジキであるスノーシューは細長のテアドロップ型をしています。その滴型の細い方を後ろにして、足を引きずるように歩くことで、高い直進性能を発揮します。それに対してカンジキは引きずらずに確実に足をあげて踏み込んで歩きます。ですからたとえば広い雪原でカンジキとスノーシューの競争をすると、断然スノーシューが有利ですが、より深い雪の中の上り下りとなるとカンジキの方が歩きやすくなります。私は両方使っていますが、特に急な斜面の下りなどはスノーシューを履いていて何度も転げた事があります。やはり広い原野を歩くために生まれたスノーシューと急峻で雪の深い日本の山岳地で生まれたカンジキの差でしょう。ですから、ヨーロッパアルプスなどでうまれたスノーシューは比較的日本のカンジキに似通った形をしています。またそれと逆に、北海道のアイヌ達が使っていたテシマというカンジキは、一般的なカンジキというよりも、スノーシューに近い形をしています。カンジキとスノーシューの大きな違いは足の固定方法です。スノーシューはつま先からかかとまで、足全体を固定して履きますが、一般的なカンジキは足のちょうど中心である土踏まずから足首を固定します。その固定方法で、カンジキが足全体に固定されるのではなくて、土踏まずを中心にしてフラフラと動くので、雪の斜面に合わせてちょうどいい形になります。これにより、急斜面の上り下りが容易になるという訳です。カンジキを履いての歩き方ですが、コツはカンジキを逃がしながら歩く事です。スノーシューに比べれば小さなカンジキですが、それでも雪の中に潜り込んだカンジキの抵抗は馬鹿にならないものです。ですから雪に踏み込んだカンジキはけして雪の中の抵抗に逆らって無理矢理引き抜くのではなくて、前に進む力つまり重心移動に合わせて自然に引き抜く動作をします。これはお話では良く説明しきれないのですが、ちょうど水を泳ぐ時の腕の動きに似ています。まず力を入れて手のひらを広げて水をかきます。その手が後ろになったところで、今度は手をまた前に出す訳ですけど、その前に出すときに同じように手のひらを広げて水の抵抗を一杯にひろったら、結局前には進まなくなってしまう訳です。ですから後ろに行った手を前に出すときはなるべく抵抗のない形で引き抜く訳です。それと同じ動作を雪の中でやる訳です。良く、はじめてカンジキをはいて深い雪の中を歩くと、強引にもがくためすぐに疲れてしまいますが、後ろ足を引き抜く時に抵抗を無くして体の重心移動ですっと引き抜けばほとんど力がいりません。ですから履き慣れた人とそうで無い人とは疲れ方が全然違ってきます。これはカンジキを履いている時だけでなく、普通にラッセルをしている時にも言える事です。

 ところで来週は、皆さんのご質問コーナーを開こうかなと思っています。山の道具や技術、その他何でも、山に関係するご質問にお答えします。またこの放送に関するご意見やご感想もお待ちしています。
送り先です。

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FAX は、0468−21−3511  川名 匡の山に遊ぶの係りまでよろしく。
また、インターネットのEメールでのご質問もお受けします。
私のEメールは、 t_kawana@so-net.ne.jp です。
私のホームページはヤフーで"かわなただし"と検索していただければ見つかります。
皆さんよろしく。
それでは、皆さんのお便りをお待ちしています。


冬と雪が大好きな一級遊び人、川名 匡でした。ではまた。



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