1999.5/18up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1999.02/27放送分)
雪の中で寝る(雪洞)
2月一杯、雪国でのお仕事が続いている今日この頃なのですが、最近はみぞれ混じりの雪が降ったり、また雨になったりと、まだまだ雪は沢山ありますが、それでもここのところ冬の寒さが緩んできたなという感じがします。先日、雪を掘っていたらふきのとうが現れました。春はもう目の前というところでしょう。冬と雪は大好きな私ですが、それでもフッと太陽があらわれて、思わず着ている上着を一枚脱ぐ時の感触は好きです。こうして日に日に寒さが緩んできて、雪国でも毎日のように降り続いていた雪が、気がつくと2日にいっぺんになり、3日にいっぺんになり、やがて三月になると、晴れる日も多くなります。厳冬期の深い雪に、胸まで浸かってラッセルをしていたのが、いつの間にか雪もしまってきて、やがてカンジキを使わなくても歩けるほどに堅くなります。実は一年の内で一番山歩きが楽なのが3月を過ぎてから始まる残雪期です。夏は道が無くて行けなかったような山も、残雪期であれば雪の上を好きな道を作って登れます。締まった雪はとても歩きやすくて、行動範囲も広くなります。以前少しお話しした山スキーやテレマークスキーなどで行動するにも、この残雪期の時季が一番でしょう。ところで皆さん、雪は暖かいってご存じでしょうか? そう、雪は暖かいのです。今日はその暖かい雪に包まれて眠るお話をしましょう。雪洞のお話です。
雪洞とは積もった雪に掘る穴の事です。"雪"に洞窟の"洞"と書きます。特に雪が沢山積もっている時季は、テントよりも雪洞の方が快適です。スコップとスノーソーという雪専用の鋸を使って作ります。なんと言っても、雪さえ沢山あれば、拡張工事しほうだい、好きなように作れるのが楽しいです。しかも雪は皆さんご存じのように0度前後ですから、高い山の中で、たとえばマイナス十何度という寒さの中でも、雪に潜ってしまえば暖かく眠れる訳です。ただ相手は雪ですから、たとえば中を暖めすぎるとポタポタと滴が垂れてきたりと、防水対策はしなくてはいけません。それでも、全く経験が無い人が考えるよりは過ごしやすく快適です。作り方ですが、まず適当な雪の斜面に横穴を掘ります。入り口は人一人が入れる程度の大きさで、適当な深さまで掘り進んだら、今度は内部を掘り広げます。掘った雪は仲間と手分けして外に出します。普通2〜3人用の雪洞で、内部の広さは一坪程度でしょうか。高さは普通に座って頭が当たらない程度です。掘るのは思ったより簡単で、1〜2時間もあれば立派な雪洞が完成します。冷たい空気は下に溜まりますから、周りに溝を掘り、入り口より若干高くした床を作ればさらに暖かくなります。壁は持参した食器や鍋などで平らにします。小物を置く棚なども好きなように作れますので、凝り性の人だとちょっと時間がかかるかもしれません。
入り口はツエルトなどのシートを使って塞ぎます。酸欠にならないように、空気穴も開けます。最後にテントでも使う断熱マットを床にひきます。これが無いとお尻が冷えて眠れません。入り口を塞いでしまえば、ローソク一本を立てるだけで暖かくなります。壁が白いので、ローソク一本でも明るくなります。
雪に穴を掘ってつぶれない?と良く聞かれますが、ちゃんと作れば大丈夫です。ただ、2日も3日も連泊すると、中で煮炊きなどをして暖まるため、天井が低くなってきたりしますが、これもその都度修正すれば大丈夫です。さてもしあなたが、自宅で雪洞の雰囲気を味わいたかったら、中身を空っぽにした押入に入りましょう。私も子供の頃よく、押入に入って遊びましたが、ほとんど同じ雰囲気が味わえます。
ところで雪洞を作るには沢山雪が積もっていなくてはダメですが、雪の少ない場所ではイグールを作ります。イグールはエスキモーの家です。雪をブロック状に切りそろえ、ドーム状に積み上げます。日本の雪国に昔からあるかまくらは、雪洞よりもイグールの仲間でしょう。3月にはその雪洞を利用した山登りの予定もあります。また行って来ましたらそのご報告もしたいと思っています。
さてちょうど偶然なのですが、山登りの雑誌である月刊山と渓谷から、雪洞の作り方を書いてというお話があって、先日原稿用紙3枚半を書きました。山と渓谷の3月号、一番後ろの方にある"よろず相談室"というページです。雪洞の作り方を、イラストもくわえて今日のお話よりもう少し詳しく書きましたので、興味のある方はこの放送と合わせてご覧になって下さい。
この放送の後、また新潟は越後湯沢入りです。こちらに戻るとき、雪はまだ町中でも2メートル以上ありましたが、さてどのぐらい減っているかな、それともまた増えているのかな……、新幹線がトンネルから抜け出た時の景色が楽しみです。
冬と雪が大好きな一級遊び人、川名 匡でした。ではまた。
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