1999.5/18up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1999.02/20放送分)
雪崩れの話
先週は突然の電話出演となりまして、皆さんには失礼しました。あの後、順調にお仕事も終了しまして、土曜日の夕方には帰ることができました。先々週の放送で、帰れなくなるかもしれないとお話したら、本当に帰れなくなってしましました。で、予定していました放送内容が若干変わってしまいますが、その辺は御了承下さい。で、私のお仕事が一体何かって事で皆さん疑問に思っている方が居るようなので、先週の放送で説明仕切れなかっただろお話を少ししましょう。
私は現在、主に新潟で、雪と氷の観測をしています。今やっているのは電線に着く着氷雪の観測です。横須賀でも、春先のベタベタの大雪が降ったときの天気予報で、"着雪注意報"というの出る時があります。電信柱の電線に雪が沢山くっついて、大きくたわんでいる姿を皆さんも見たことがあると思いますが、あの電線着雪が大きくなると、電線が切れたり、最悪は電信柱や大きな鉄塔まで倒れてしまう事があります。それだけ雪の重さと言うのは大きくて馬鹿になりません。で、その為に、どのようなメカニズムで電線に雪が着いて、さらに大きく発達していくのかと言うことを実際に雪が降っているフィールドで検証しようという試みです。私が現在常駐している新潟の施設には、大きな風洞実験の設備があって、実際に降ってくる雪を集めて風洞内で強制的に吹雪の状態にします。この場合の雪は人工的に作った雪ではやはりダメで、結局本物の雪が実際にバンバンと降り出してくれるまでは実験が出来ません。そして、降り出したら止むまでその実験は続きます。と言うわけで、ちょうどたまたま、先週は金曜日の夜から土曜日の夜にかけて大雪が降りましたので、横須賀に帰れなかったと言うわけでした。雪氷関係の仕事は、この着氷雪関係だけでなく、雪崩の観測や実験、雪の吹き溜まりや雪屁の観測などもあります。つまり一年の間で、雪が降ったり積もったりしている期間が、私が仕事人になる期間となります。
と言うわけで、前置きが長くなりましたが、今日は私のお仕事の一部である、雪崩のお話をしましょう。
雪崩はそこに雪が積もっていて、その雪が滑り落ちるだけの斜面があればどこでも発生する現象です。ただ、雪が斜面をたえず滑り落ちていれば大した影響は無いのですが、その雪がある程度まで斜面に積もってその重さに耐えられなくなった時に大量の雪を一度に滑り落ちてくる場合にはとても巨大なパワーとなります。記録では、鋼鉄の鉄塔を根元からなぎ倒したり、二階建ての立派な家を完全に押し流したりする雪崩もけして希ではありません。ただし、そんな巨大なパワーを出すのは春先に起きる底雪崩です。底雪崩は、ほとんどの場合は場所も雪崩れる期間も毎年決まっていて、比較的容易に予測する事が出来ますが、我々登山者が遭遇して恐ろしいのは底雪崩れつまり全層雪崩れではなくて、表層雪崩という比較的小規模のどこで起こるか分からない雪崩です。表層雪崩と一口に言っても、大小さまざまですが、そのほとんどは大きな木もえぐってしまうほどのパワーはありません。ただし、その雪崩れに人間が巻き込まれると、これは大変です。ホンの数十メートル巻き込まれて流されただけでも雪の中に埋もれてしまい、一人で脱出するのは困難です。私も以前、小規模な雪崩れに巻き込まれた事があります。ふと気づくと、自分とその周りの雪が流されていて、見る見るうちに体が埋まっていきました。その状況はスローモーションのようで、とても不思議な体験でしたが、幸い頭まで埋まるほどではなかったので、自力で脱出出来ましたが、もう少し規模のでかいものだったら、はたして自力で脱出出来たかどうかは分かりません。よく雪崩は、(この場合は表層雪崩の話)朝よりは日中の暖かいときや日が射して雪がゆるんだ時に起こると言われていますが、実際には雪の斜面があればいつでも発生します。晴れた日中に起きなくて、真夜中に雪崩れる事もあります。ようは斜面と積雪の力関係で、その均等が保てなくなったときに発生します。一番危ないのは顕著な弱層帯がある時です。何日もかけて沢山降り積もった雪の層と言うのは均一な層ではありません。沢山降って積もり、一段落して晴れ間が出たときに積雪の表面が暖まって雪が溶けさらに夜になってその溶けた部分が今度は堅く凍りつきます。そしてその上に新たな雪が積もれば、その場所の上に積もった雪が滑りやすい弱層帯が出来上がります。そしてその弱層帯の上に積もった雪が、何かのきっかけで雪崩となって滑り出すと言うわけです。そんな雪崩の怖さを知っている登山者は、雪の沢山積もった場所を歩くときに、弱層テストをします。弱層テストと言うのはとても簡単です。手で抱えられる程度の大きさで積もった雪をかき分けて雪面を頂点とした雪の塔を作ります。そしてその塔に腕で圧力をかけ、容易に崩れるようだったら顕著な弱層帯があると言うわけです。このテストで分かるほどの弱層帯があるような時は、もういつ雪崩れてもおかしくない時で、そんな日はたとえ晴れていてもあまり行動するべきではありません。
さて、雪崩のこと、少し分かったでしょうか?
分からないことありましたら、またご質問お待ちしています。
寒い寒い冬と雪が大好きな、雪国暮らしの一級遊び人、川名 匡でした。ではまた。
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