1999.5/18up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1999.01/30放送分)

ヒールフリースキー

 寒い寒い冬が続いていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。私は年越しの風邪が未だに直らずに、今一本調子ではありません。と言ってもしっかりと山には登っております。2週間前には八ヶ岳もほぼ予定通りに登れましたし、先日は山梨の四尾連湖周辺を散策してまいりました。行き帰りの電車はスキーヤーが一杯で、やっぱり冬のアウトドアースポーツは雪山登山よりもスキーがメジャーなのだなと感じました。

 さて今日は、そのスキーの中の一つのジャンルであるヒールフリースキー、雪の野山を自由に駆けめぐるスキーのお話です。その昔、山登りとスキーは一つの大きなジャンルの中にあるものでした。冬山登山とスキーは切っても切れない中で、というより、スキーとは雪山の中を行動する為の技術でした。いつの頃からか、スキーが独立したメジャーなスポーツとなり、山登りはそのまま暗い世界に留まったという訳です。それだけ登山技術とスキー技術は密接な関係があります。ところでヒールフリーという言葉が出てきましたが、ヒールフリーつまりかかとが自由になるスキーと言う意味です。普通のスキーというか、アルペンスキーの場合は、足はスキーの板に完全に固定します。しかし野山を駆けめぐるのが目的のスキーの場合は、かかとが浮く方が滑りやすくなります。皆さんが良く目にするものと言えば、冬季オリンピックのノルディック競技などでしょう。あと、特殊ではありますが、ジャンプ競技のスキーもヒールフリーです。さてそのヒールフリースキーですが、現在は三つの種類があります。ノルディック競技などで使われるクロスカントリースキー、最近はたばこの宣伝などで有名になったテレマークスキー、昔からある山スキーの三種類です。クロスカントリースキーの特徴は長く細く軽い板です。靴は運動靴のように軽快で、つま先の部分のみが板に固定されます。エッジは無くて、板の底に鱗状のパターンが刻まれていて、板は前には滑るが後ろには滑りにくい形となっています。これで平地を軽快に滑ることができます。ただし起伏の激しい地形では滑りにくくなります。テレマークスキーは皆さんよくジャンプ競技で"綺麗なテレマーク姿勢で着地"という言葉を良く聞くと思いますが、片膝をついて、しゃがんだようなテレマーク姿勢でターンを切るのが特徴のスキーで、その姿勢の呼び方がそのまま名前となってしまいました。板はアルペンよりも細くて長いですが、クロスカントリースキーほど細くなくまた軽くもありません。初心者用の板にはクロスカントリースキーと同じような鱗状の制動が付いていますが、基本的には板の底はフラットでアルペンと同じです。やはり靴のつま先部分を固定します。かかとがフリーになる為、テレマーク姿勢がとれます。クロスカントリースキーよりも起伏の激しい斜面でも行動ができます。エッジはついていますが、アイスバーンなどの堅い雪には不向きです。そして山スキーですが、これはアルペンスキーの原型です。板は若干アルペンよりも短く幅も広いですが、見た目はほとんど変わりません。ただし深い雪を滑るため柔らかくできています。やはりかかとが浮きますが、アルペンとほとんど同じようなスキー靴を履きます。これらのスキーを使って野山に繰り出す訳ですが、一般のスキー場でのアルペンスキーとこれらヒールフリーのスキーとの大きな違いは下り斜面以外での行動をすると言うことです。平坦な雪原を移動することもあれば斜面を登ることもあります。その為にクロスカントリースキーには鱗が着いていたりしますが、テレマークスキーと山スキーはシールという道具を使います。シールはその昔はアザラシの毛皮でできていました。板の底に張り付けて使用します。このシールはクロスカントリースキーの鱗と同じ役目をしますが、威力は数倍です。前には進むが後ろには滑らなくなって、かなりの斜面を登れます。このシールは登りに着けて下りは取り外します。皆さん"雪山賛歌"という歌を聴いたことがあると思いますが、その歌の何番目かの歌詞に、"シールはずしてパイプの煙"というのが出てきますが、これはつまりシールを付けたスキーで急斜面を登り終えて、さあいよいよシールをはずしてこれから下りを滑る。その前にちょっと一服という場面だと言うことが分かります。話は前に戻りますが、雪山賛歌という山登りの歌の中にスキーが出てくる事からも、昔は登山とスキーが一体だったと言うことが分かります。
 さてもう一つ、この野山を滑るスキーが一般のアルペンスキーと違う点があります。それは整備されていないフィールドに入り込むと言う点です。スキー場ではよほどの事がない限り雪は圧雪されて滑りやすく、コースを迷って遭難なんて事もありません。疲れればレストハウスがありますし、なんと言っても登りはリフトであっという間です。ところが野山を滑るスキーは、それらすべてが自分の技量でまかなえなくてはなりません。まず地図とにらめっこをしてコースを把握し、深い雪を滑り、また長い斜面を登り、天候判断をし、腹が減ったら自分で担いできた食糧を食べ、暗くなったら寝床を探します。これらすべてを自分たちでやらなくてはならなくなります。もちろんスキー場よりは危険も増えます。それだけのリスクを克服するだけの技術を身につけることと覚悟が必要ですが、それだけに充実感はゲレンデスキーでまず味わえない醍醐味です。
 また今度、雪の中で眠るお話でもいたしましょう。


寒い寒い冬と雪が大好きな一級遊び人、川名 匡でした。ではまた。


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