1999.5/18up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1998.12/04放送分)
冬山トレーニング
色々な山が真っ白になりました。いよいよ冬本番ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
さて、これからのシーズンの山登りというのは、やはり雪の中を登ることが多くなります。さほど標高の高くない山でも、豪雪地帯の山ですと、ラッセルと言って雪をかき分けて登ることもありますし、標高の高い山に行けば、雪だけでなく氷対策も必要になってきます。そしてその為の雪や氷を登るための雪氷登山技術が必要になってくる訳です。毎年、この初冬のシーズンになると、私たち山馬鹿たちは、トレーニングを始めます。一度覚えた技術でも、雪のないシーズンを過ごしてくると体が忘れかけていますし、なんと言っても反復練習が必要です。来週は富士山にそのトレーニングの為に登るのですが、今日はその冬富士雪上トレーニングのお話をしましょう。
富士山と言っても山頂まで登るわけではありません。5合目から8合目あたりまでの雪の斜面を使って、雪を登るためのトレーニングをします。まず何をするかというと、歩行訓練です。歩くことは誰でもできますが、人それぞれ歩き方の癖というモノがあって、たまたまその人に、雪山を歩くのによろしくないような癖がある場合は、そのトレーニングがとても有効になります。たとえば靴の底のどちらか一方がいつも極端に早くすり減って無くなってしまうような人は、歩き方に癖が多い人です。がに股だったり内股だったり、また足を引きずって歩くような人も、雪上歩行には要注意です。雪上歩行の基本は、足の裏をフラットにおく事。つまり、足の裏全体を雪面に着けて歩く事です。横須賀にたまに雪が積もったりするとよく滑って転んで怪我をする人がいますが、それは雪に慣れていないからではありますが、雪上歩行の基本ができていないからです。ですから、生まれたときから雪の上を歩いている、雪国育ちの人は、とても上手に歩きます。それはがに股だったり内股だったりの癖が自然に雪道歩きで強制されたと言うか、そんな癖があったら怪我が絶えませんから、自然に矯正されて、綺麗な歩き方になっているからです。実は何を隠そうこの私もがに股気味でして、雪道を歩くときは意識してまっすぐに足を伸ばします。毎回意識して足を伸ばして歩いていればいいのですが、やはり過激な運動の山登りなどをして疲れてくると注意力が散漫になり、ついつい悪い癖が出たりします。よく山登りで下山時に事故が多いのはこのためです。ですから、つまり意識しなくても歩けるようにするためにトレーニングがあるわけです。ですから、今回の富士山は2日間合計12時間程度はトレーニング時間を作るつもりですが、その半分は基本的な歩行トレーニングに費やします。トレーニングは雪の斜面を利用しますが、緩斜面、急斜面、ただ上下の上り下りだけでなくて、斜め下りや斜め登り、また斜面の横移動など色々な方向で歩くトレーニングをします。
歩行トレーニングにはアイゼンワークもあります。アイゼンとは靴の裏に着ける滑り止めの金具ですが、斜面が急だったり堅く凍り付いているような時に着けます。普通2〜3センチの金属製の歯が10本から12本出ていて、クラストした雪面にその爪を刺して歩く訳です。その爪が雪面に刺さった摩擦力を利用して滑る事を防止する訳ですから、当然刺さった爪が多くてすべての爪に均等に力がかかった状態が一番有効です。ですから、アイゼンを履いた状態でも、アイゼン無しの先ほどの雪上歩行の時と同じ"フラット"な状態で足をおくこと、つまり足の裏・靴の底全体で踏みしめる歩き方が基本となります。ただし急斜面の場合は、前の爪だけで蹴り込んで登る登り方もあります。アイゼンワークのトレーニングも色々な斜面で色々な登り方をします。
その他にも、ピッケルワークとか、ザイルワーク、そしてもし万が一滑ってしまったときにピッケルを使って体を止める滑落停止動作などを反復練習する訳です。また富士山だと、6〜7合目と言っても3000メートル近い標高ですから、冬の高山の気象条件を肌で味わえますし、またテントに泊まりますので、雪山での生活技術一般のトレーニングにもなる訳です。強風が吹いている中でのテントの張り方やたたみ方、気温もマイナス20度前後ですので、何もしないで寝ているだけでもトレーニングというか、その人の経験となります。晴れると、夜は満天の星空で、天の川もバッチリです。富士山に登ったことがある人でしたら分かるでしょうが、三浦半島の形が地図と同じだと言うことも確認できます。また下には、大男の足跡に水がたまったような山中湖が小さく見えますし、景色だけはバッチリの富士山です。また帰りましたら、その報告もしたいかなと思っています。
最後に、山登りをやっている人でしたらおなじみの月刊山と渓谷という雑誌をご存じでしょうか?
実は今月12月号、12月15日発売の月刊山と渓谷に、これからの12月から1月分の"山に遊ぶ"の放送のサブタイトルを載せていただくことになりました。コレをご覧になれば、いつどんな話をするのか分かります。よろしかったら本屋さんなどでちょろっと立ち読みをして下さい。えっと、よかったら買って下さい(^^;。この場をお借りして、山と渓谷社さんに感謝致します。どうもありがとうございました。
皆さんのご質問も待ってます。
寒い寒い冬と、雪が大好きな一級遊び人、川名 匡でした ども
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