1999.5/18up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1998.05/16放送分)
命が宿る岩
新緑がとても綺麗な季節になりました。
最近の山は、ゴマ風味の和風ドレッシングでもかけると美味しそうな黄緑色に染まっています。紅葉も好きですが、私はこの新緑の鮮やかな明るい黄緑色が風にそよぐ姿が大好きです。紅葉は"円熟味"といいますか、ベテランの職人の技が作り上げたようなすごみがありますが、新緑の黄緑色は、見るからに若さが飛び跳ねているように鮮やかです。私はそろそろ円熟味……とは言えないかもしれませんが、"渋み"が体のあちこちにというか節々にというか、(^^;その…そろそろしみ出てきてるようなので、あのピョンピョンはねる若さが懐かしく、毎年毎年、しかも私より何十倍も長生きして毎年若さと円熟の技の両方を見せてくれる森の木々たちがとてもうらやましく感じます。
木々は生きています。まぁ当然の話ですけど……。しかし私は、木々はただ生きているだけでなく、物事を考える力も、感情も持っているような気がしてなりません。ひょっとしたら、私たち人間よりも深い思想や感情を持ち、何百年もの歴史をその記憶の中に蓄積しているのかもしれません。木々達は、その森の中で、私たちに分からない言葉で、コミニケーションをとっているのかもしれません。いや、かもしれないのじゃなくて、私は最近、それを確信しています。そしてそれは、木々や草花だけでなく、岩や水や霧にも命が宿り、思想や感情を持っているように感じるのです。彼らは、森の中に入ってくる人間達をどんなふうに見ているのかなと、毎週のようにじゃましに行ってる私は、ちょっと気になったりもします。
以前この放送で、木に話しかけられたお話をしましたが、私には、やはりその木と同じように話しかけてくる大岩がいます。先日お話しした穂高への道、横尾という場所から少し入った登山道にその大岩はいます。その岩は、山肌に小石がちょこんと乗っているような気軽さで、登山道のすぐわきにいます。ただし、大きさはざっと見て三階立ての鉄筋住宅位あります。形は丸っこい河原に転がっている小石そのもので、その場所に元々あった岩ではなくて、おそらく私が考えられないくらい大昔に、大地震か大洪水か、とてつもなく巨大な自然のパワーで、その場所にたどり着いたのだと思います。彼はその時からずっとそこにいます。最初はツルツルの綺麗な岩肌だったのでしょうが、今その体には、全体をコケが覆っていて、とても20年や30年では出来ないような大きな木が何本も宿っています。ですから、その大岩だけではなくて、覆ったコケや宿った木や草花、そのすべてが重なり合って、その大岩が一つの生命体となっているのかもしれません。
私が、彼の鎮座するその場所を初めて歩いたのはもう20年も前のことです。それから毎年その場所を訪れていますが、彼に話しかけられたのはここ数年前の事です。その彼は見るからに大きくて、絶対確実に私は彼の前を毎年毎年歩いていたはずなのに、実は彼に気づいたのはその時でした。フッと頭の中に声が聞こえて、見上げると彼がいました。良く木は話しかけてくれますが、大岩に声をかけられたのは初めてでした。その彼は、本当に立派で、大きな木がニョキニョキ生えていました。彼はなんと言ってるのかは分からないのですが、とにかく話しかけてくれました。話しかけられたと言うことはとても名誉な事で、その森の中に居ていいよと、許可をもらったのだと、私はいつも自分の都合がいいように考えています。だから私も、遅ればせながらご挨拶をしました。頭を下げたりしたら、他の登山者がもし見たら「こいつはちょっとおかしいのか」と思われてしまいますので、たったまま彼を見つめて、心の中でご挨拶しました。しかし、私は登山グループの最後尾を歩いていたので、気が付いたらメンバーはドンドン歩いて行ってしまっていて、しかも他の登山者も現れず、結局私一人でした。あんまり遅れちゃ行けないと、すぐに仲間を追いかけましたが、やっぱり頭を下げればよかったなぁと後で後悔したものです。帰りも一人でご挨拶しました。それからはここ数年、毎回彼の居る場所を訪れると、行きは「やあ」とご挨拶して、帰りは無事に下りられました。と手をあわせて感謝しています。
森が生きているのは当然ですが、その中にいる草木や動物だけでなく、岩や水も生きています。あなたも森に出かけて見ませんか? 森はとてもシャイなので、普通は静かにしていますが、何回か訪れて顔見知りになれば、ある日声をかけてくれるかもしれません。しかしその為には、こちら側も心を開かなくてはいけません。しかも、待つのが嫌だからって、こっちから話しかけても答えてくれません。森は本当に恥ずかしがりやなんです。
一級遊び人:川名 匡でした 今日はこの辺で、 ども
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