1999.5/18up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(1998.02/07放送分)

山で会った動物たち

 先日、山にお仕事に入ったとき、雪の中にカモシカを見ました。
 霜降りグレーのとても暖かそうな冬毛でした。約10メートル程度離れていたでしょうか。野生のカモシカを見る距離としてはかなり近い方だったと思います。その時、ふと足下を見るとなんと足が6本見え、あれ?っとちょっとビックリしたのですが、回り込んでよく見ると後ろに子供が隠れていました。親カモシカにじ〜っと私の方を見つめられましたが、ピクリとも動かずに子供を必死に隠して警戒している姿が、とても凛々しく見えました。子供はというと、親カモシカと対照的にバタバタ動き回っていました。ゆっくりと観察したかったのですが、あまりに警戒している姿がかわいそうだったので、早々にこちらの方から身を引いて、別れてきました。
 深い山に入るとたまに動物に会うことが出来ます。当然、私たち人間よりも、たくましく生きている野生動物の方が敏感で警戒心が強く、そして敏捷ですから、いかに山深い奥地に行っても動物の姿を見られる機会はとてもわずかです。今日はそんな野生の動物に会った経験をお話しましょう。
 さて日本カモシカですが、実は"鹿"ではなくて、牛科の動物つまりあのモ〜ウと鳴く牛の仲間です。その違いは足跡を見るとよく分かります。二本の大きな爪の、まさしく牛の足跡をしています。足跡は雪が積もっている時期にはよく分かります。その動物達の雪上に残された足跡を観察して楽しむ"アニマルトラッキング"という観察方法もあります。野生の動物たちの姿を見るのは本当に大変ですから、"アニマルウオッチング"よりも現実的です。

 ところで、今まで私が見た事がある野生動物ですが、カモシカ、鹿、月の輪熊、日本猿、テン、オコジョ、キツネ、たぬき、ウサギ、リス、ヤマネ、等々ですが、さらに色々な蛇や鳥などもその数に入れたら、かなりの種類になると思います。今あげた動物達の中で、出会って一番楽しいのがオコジョです。とても小さくてかわいいオコジョはすばしっこいのですが好奇心旺盛で、なかなか遠くに逃げません。最初すぐ足下の岩のあいだから顔を出していたかと思うと、すぐにいなくなります。あれ?逃げちゃったのかな? と思ってさあ行こうと思うと、ちょっと離れた岩影から顔を出しています。そしてまたいなくなったかと思うと、すぐにまた別の場所から首を長くして顔を出します。まるで"モグラたたき"のように色々な場所から顔をだすので、何匹もいるのかな?と疑ったほどです。クリクリした目でこちらを見つめる姿がとても滑稽でかわいくて、いつまでも見ていたかったのですが、そのうち飽きたのか出てこなくなってしまいます。こちらが観察していたつもりが、後になってよく考えると、どうやらオコジョの方に見物されていたということが分かります。
 出会って一番怖いのが熊さんです。ただし、月の輪熊はそんなに凶暴ではなくて、余程ビックリさせてしまうとか追いつめたりするとか、虫の居所が悪かったりしなければ人間を襲うようなことはありません。北海道に生息しているヒグマはその限りではなくて、人を見たら"餌"と思うそうですから、かなり怖いのですが、それでも、あちらのテリトリーにずけずけ入り込んだり、過剰な刺激を与えなければいきなり襲われる事はないそうです。"無いそうだ"というのは、残念ながら私はヒグマには出会ったことがないので、分からないからです。さてヒグマよりおとなしい、本州生息の月の輪熊には何度か会ったことがあります。最高に至近距離だった時は、なんと2メートルほどしか離れていなかったです。その時は、今から思うとお間抜けな熊なんですが、私たちの目の前に、崖から落ちてきました。たぶん、きわどい場所にいるときに私たちの気配に気がついてじっと止まって我慢していたのが耐えきれずに、よりによって目の前に落ちてしまったのだと思います。ドスンと大きな音で黒い固まりが落ちてきたときは、心臓が止まるかと思うほどビックリしましたが、熊もあせっていたのでしょう。そのまま土を蹴って森の中に逃げて行きました。熊は小熊だったので、親熊がどこかでじっと見ていたのではないかなと後で考え、何事も無くてよかったなと今では思っています。昨年確か丹沢で、一人歩きの女性の登山者が熊に襲われて怪我をしましたが、おそらくとてもタイミングが悪かったからだと思います。熊もビックリするくらいにいきなり出くわして、しかも熊の逃げ場が無かったとか、人間の方が熊をそれと分からずに脅かしてしまったとかだと思うのですが、どうでしょう。
 ところで熊よりも怖かった動物との出会いがあります。それは猿です。その時は、何も気づかずに猿達の集団のど真ん中まで入り込んでしまって、気がついたら何十匹もの猿に取り囲まれていました。特に雄ザル達が枝を揺すったり叫び声をあげたりして私を威嚇しました。結局、ゆっくりゆっくりとなるべく目線を合わせずにその場所から抜け出して、何事も起こらず事なきを得ましたが、あの時は本当に生きた心地がしませんでした。  結局私たちは、動物達が暮らしている山に登らせてもらっているわけですから、動物達や自然そのものにも謙虚にならなくてはいけないなと思います。これからも色々な動物に出会って、あちらにとってはとても迷惑な話かもしれませんが、交流を深めていきたいと思います。

さてまた雪まみれになってきます。ずっと吹雪が続いて久々に晴れた雪山は、それを喜んでいるようなウサギ達の足跡でいっぱいになります。その中に、私の足跡も加えさせてもらいましょう。

 雪が大好きな一級遊び人:川名 匡でした ども




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