2002.10/10up
FMブルー湘南
川名 匡の山に遊ぶ
(2002.08/17放送)

台風

私は現在、北アルプスの一番北側にある、剣岳という山に登っているはずです。
大人数の仲間たちと、夏山をエンジョイしているはずです。

先週は雷のお話をしましたので、今週はもう一つの山での恐怖、台風に関してのお話をしましょう。

まず、台風は怖いです。
以前、台風観測と称して、わざわざ台風が来ている時に山に登って、強風の有人観測を仕事でした経験がありますが、遊びで山に登るときに、もし台風が近づいてくるような事があったら、私はすたこら山から逃げます。自然のものすごさは人知をはるかに越えています。それは蒙古来襲の時から、数百年たった現代でも、何ら代わりはありません。たとえば、冬の発達した二つ玉低気圧なども、高い山で遭遇するとスゴイですが、やはり台風は別格です。ただし幾ら逃げ出すと言っても、長期間の予定で山に入っている時は山の中で台風をやり過ごすというか、ジッと通過するのを待つという事があります。以前、何度かこの放送でもお話ししたことがあると思いますが、私も何度か台風につかまってしまった事があります。では、そんなときどうしたらいいのかというお話をしましょう。

台風災害を避ける為には、まず、情報の収集が第一です。山に特に数日間をかけて登る山屋にとって、気象情報の収集は絶対に必要です。そこで私達の場合は、携帯のラジオを持参します。時間があればラジオの気象通報を聞いて、自分で天気図を書いたりもします。ですから、たとえば2〜3日後には台風が接近しそうだ。程度の情報は容易に得られます。そんなとき、台風が接近してくる時にまだ山に居る様な予定の場合は、できるだけ速やかに下山する訳です。また、台風の発生と接近は早ければ一週間も前から分かりますので、やはりそんな時には山の計画は考え直します。しかし、不幸にして山で遭遇してしまった場合。まず山の稜線は避けます。遮る物のない稜線は、台風の強風をまともに受けますので、地上での強風のさらに数倍強い風にさらされます。私達はほとんどテントで泊まるのですが、台風の強風を、遮る物のない稜線で耐えられるテントはありません。その場合は山小屋に避難するか、できれば樹林帯まで、できるだけ低い場所まで下ります。しかし低い場所と言っても、崖崩れがおきそうな場所や沢筋もよろしくありません。傾斜の緩い原生林などの自然林がある場所がベストでしょう。どうしても強風の吹きさらしの場所でテントの場合は、テントはポールなどを使って張らずに、そのまま被ってしまうほうが風をやり過ごせます。少しでも風が遮られる岩陰などで、大人数の時はメンバー全員が固まって、テントを被ってやり過ごす。もっともこんな状況は遭難の一歩手前という事ですが、テントを張って、風で飛ばされてしまうよりはいい訳です。また稜線などては無く、樹林帯のたとえば指定されたテント場などでも、悪天時に最悪の場所があります。土地が低く、水が溜まりやすい場所、樹林の境目で、強風にさらされる場所。等々です。またそんな環境を耐えてやり過ごした後、台風一過の青空は素晴らしいものですが、山の場合、台風の通過後、たとえ晴れたとしても安心しては居られません。大量に降った雨で地盤が緩んでいたり、大きな川に面していれば、増水した水も早々引きません。登山道のどこかが崖崩れて通行不能になっているかもしれません。ですから、たとえ通過後も気を抜くことなく、行動しましょう。また山に登る予定の日、つまり入山日が台風の通過直後も注意しなくてはいけません。台風一過に晴れたとしても、今話したように、山の中はどんな状態になっているか分かりませんので、地元の登山口にある市町村などに問い合わせをして、情報を収集する必要があります。

私自身、山で台風に遭遇した事は何度かあります。
最初にお話しした様に、お仕事で台風観測をした時は、観測施設の小屋が飛んでしまうかと思う位に揺れ動いて生きた心地がしませんでした。忘れもしません、伊吹山の山頂でした。遊びの山では、北アルプスの横尾という場所で台風をやり過ごした事があります。テントでしたが、増水を考えて高台に設置した事で流されずに済みましたが、朝起きてみると、テントの直ぐ脇に木が折れて倒れていて、ちょっとヒヤッとしました。台風が来ると言うのに河原に張っていたテントは流されていました。その時は皆、山小屋に非難したようで、流されたのはテントだけでしたが、そんな人達の危機感覚は信じられません。翌日はとてもいい天気になったのですが、下山道のあちこちで崖崩れがあって、迂回して歩いたりしました。何事も慎重すぎる事に越したことはありません。皆さんも、ちょっとした事でも甘く見ないで、特に大自然の中にどっぷりと浸かっている山の中では、危機感覚を鋭く磨いていてください。

さて、遊びの剣岳が終わると、今度はお仕事でまた北アルプスに入ります。
来週末から薬師岳、黒部五郎岳、前穂高岳、奥穂高岳、西穂高岳、焼岳と、沢山のピークにトータル10日間かけて登ってきます。

と言う訳で、8月は北アルプス三昧というか、北アルプスだけを攻める事になってしまいましたが、しっかりと頑張って来ましょう。
また帰りましたら、お話しします。

山岳一級遊び人、川名 匡でした。ではまた来週

 

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