駅2


駅つづき

川名  匡 

 改札が始まった。
 新幹線駅方向から来る鈍行がこの駅止まりで、折り返し発車となるらしい。
あまり暖かくないと思っていた待合室から一歩ホームに出ると、体がブルッと小さく震えた。塵のような小さな雪が、ハラハラと舞っていた。
 ホームは二つあり、俺が乗る列車は跨線橋を上り下りしたひとつ向こう側だった。その跨線橋が駅の反対側のスキー場へ延び、スキー場のレストハウスにそのままつながっていた。だからスキーヤー達が行ったりきたりしてたんだ。
 ホームの中央に立ち食い蕎麦屋があった。白衣を着たおばさんが、モクモクと湯気の立つ釜をつっついている。ちょっとそそられたが、そのまま車内へ入る。二両編成の先頭車両に乗る。ホームの反対側、中央のボックス席をひとりで占領。と言ってもその車両には計3名しか乗ってはいなかったが……。

おばさん「ふぁ〜、何とか間に合ったね〜」
おじさん「あぁ〜、なんとかなぁ〜」
 だいぶ急いで来たのだろう、肩で息をしながら、スキー帰りの中年夫婦が乗り込んできた。紫のラメ入りのスキーウエアーを羽織ったおばさんは、私の反対側のボックスにスキーバックを置くと、座席にドカッと腰掛けた。どうやら、温泉駅で新幹線に乗り換えて、東京まで帰るらしい。

おじさん「蕎麦喰ってくるかなぁ」
 と席を立った。
おばさん「あんたぁ!もうだめだよォ、あと5分で列車出るよぉ〜」
 おばさん中腰になりながらおじさんを止めようとしたが、おじさんは全然気にするでもなく、ドアから出ていってしまった。実際にはあと8分あったが、おばさんは落ち着かない様子で、窓を開けた。
おばさん「ねぇ、早くしなさいよ〜」
 頻繁に声をかけてる。
おじさん「こう言うところで喰う蕎麦がうめ〜んだよ」
 先に注文した人が何人かいたが、すぐに蕎麦は出来上がり、おじさんすすり出した。うまそう……。見ると食べたくなるのは人情……。でも我慢。
おじさん「おまえ、喰うか?」
 窓越しに、おばさんに声をかける。
おばさん「いらないよォ なんかまずそうじゃない 早く食べなさいよォ〜」
 やがて出発2分前、おじさんは満足そうに腹をさすりながら乗り込んできた。
おばさん「どう、美味しかった?」
おじさん「いゃ、そうでもなかった」
おばさん「ほら、だから言ったじゃない」
おじさん「品川駅の蕎麦の方がうめえな」
おばさん「あぁ、そんな話し聞くね」
おじさん「品川駅だからいいってモンじゃねえよ、横須賀線のホームの奴だ」
 へぇ〜知らなかった。こんど行ってみよう。
 そんな話しをする中年夫婦の後ろのボックスから地元の人が顔を出した。
地元人「その品川駅の蕎麦、こっちの蕎麦なんですよ」
 いかにも待ってましたという感じで話しに割り込んできたのは、背広に羽毛服をはおり、防寒長靴を履いたサラリーマン風のおじさんだ。
地元人「この山ひとつ向こうの十日町の"つまありそば"っていうやつです」
おばさん「へぇ〜そうなんですか」
おじさん「そのわりにはここの蕎麦、さほどうまかなかったなぁ」
地元人「高いですからね〜ここじゃ使ってないでしょ」
 と笑いながら言った。
 その時、ガラガラッ、ガラガラッという音が聞こえてきた。
さっき待合室にいたオカマのカップルだ。女性?の方が蕎麦屋に行った。
おばさん「あらっ、あの女の人これから食べるよ」
おじさん「大丈夫だろ、早く喰えば」

 男性の方は食べないのか、少し離れた場所に立っていた。女が蕎麦をすすりながら上目遣いで男を見ている。食べる?って仕草でどんぶりを少しあげた。男は首を振る。女が男に近づいていき、どんぶりを差し出した。しかたなさそうに男が受け取る。車内ではその光景を、おじさん、おばさん、地元人、 そして俺がただなんとなくジッと眺めていた。
 やがて発車のアナウンス。
おばさん「ねぇねぇ、あの人達間に合うのかねぇ」
 と心配そうに言う。
地元人「いやぁ、違う列車に乗るんですよ」
 列車のドアがプシュっという音と共に閉まった。

 列車が走り出したとき車窓の外には、フーフーと蕎麦をすする男性を、ケラケラ笑いながら見ている可愛い女性の顔が写っていた。
 俺は寒々とした雪国の白一色の景色を見ながらも、妙にホカホカと暖かい気分になったのは、座席の暖房のせいだけじゃないと思った。

おわり  

 おっと一言。
そう言えば、あのカップルが駅に現れてから、俺の列車が走り出すまでの約1時間。あの男性は、一度もタバコを吸ってなかったなぁ……。

ホントにおわり 

(これはノンフィクションです)




あとがき

走る列車の中で、手帳に"つまありそば"とメモしながら、
「この話、書きた〜い」と思いました。
だから、書き出したら一気でした。
これからは新幹線ばかりじゃなく、
たまには上越線も乗ってみようと思いました。

不安1 修正と言えるかどうか……
    >駅員「大宮までドア空かないかなぁ… ねぇ?」
     たしかそんな風に聞こえたのですが、あとで時刻表で確認したら、
    そんな列車はありませんでした。
    たぶんカップルが乗ったのは新特急谷川8号で、次に止まる駅は
    水上駅(17:08)です。(注意→平成8年1月時点)

不安2  品川駅横須賀線ホームの立ち食いそばが、
    "つまありそば"を使用しているかの確認はしておりません。
    ひょっとしたら"眉唾話"かもしれませんので、
    用事もないのに品川駅まで行って確認しないように。
    ちなみに私が行って食べたところでは(しっかり事後取材したゾ)
    他の立ち食いとあまり変わらなかったような……気がします。
    でも品川駅構内のそばは確かにうまい。
    そば屋の人には、怖くて聞けませんでした。(小心者)

自宅にて 俺  

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一級遊び人:川名 匡 t_kawana@da2.so-net.or.jp